暗く淀んだ瞳のあなた

あげあげぱん

第1話

 毎朝、顔を洗う。朝食と夕食のあとに歯を磨く。お風呂に入る前に通りかかる。その度に、私はその鏡を見る。鏡に映る度に、私の気だるげな目が私を見る。その視線が、私は嫌い。だって、その目が怖いから。


 私の目は暗く淀んでいて、今も、洗って濡れた顔が、私の前にある。タオルで顔を拭いてみたけど、その印象は変わらない。可愛く整った顔に不似合いな、恐ろしい瞳がそこにはあった。私はこの瞳が怖くて、友達はもっと怖がってて、両親でさえ目を合わせようとしてくれない。だから、私は決意しました。


 ハサミを握る手が、震えている。鏡の中の私は涙を流している。まるで許してもらおうと、しているみたいに、その恐ろしい瞳で、私を見つめている。私は……ためらった。私がためらうと、鏡の中の私は笑った。安堵したみたいに、あるいは……私を嘲笑うみたいに。その笑みを見て怒りが沸いた。その笑みが私を動かした。


 私は、私の両目にハサミの刃を突きつけた。痛い。痛い! 痛くて、痛くてたまらない! 私の両目からは何かの液体が流れていた。どぼどぼ、どぼどぼ、たぶんそんな感じ。痛い。だけれど……ざまあみろ。


 目を失って……時間が経って、私は皆に、見てもらえると、見てもらえるようになったと……思っていたの。けれど、誰も私を見てくれなかった。前みたいに、前以上に私を恐れて煙たがる。それだけだった。それが凄く……凄く悲しい。


 ねえ、私は……どうするべきだったのかな? 鏡の中のあなたを、私は受け入れるべきだったのかな?

 そうすれば、あなただけは私を見ていてくれたのかな? ほんと、どうすれば良かったのかな?


 答えを知りたいけど分からないんだよね。私は、あなたを殺してしまったから。私だけを見てくれた暗く淀んだ瞳のあなたを殺してしまったから。


 ごめんなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

暗く淀んだ瞳のあなた あげあげぱん @ageage2023

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ