敵ノ防衛線ヲ突破セヨ(五)
けたたましい警報音に飛び起きる。壁の赤色灯が急を告げる戦艦クラマ内、三魔戦の更衣室兼待機室。待機組の四人で毛布を持ち込んで仮眠をとっていたのも
「復唱します。カンナ少尉より救援要請、方位〇-三-〇。サクナ准尉他三名、出撃します!」
了解の意味を込めてひとつ
実用性のみを追求した円形の壁掛け時計にちらりと視線を送れば時刻は
「飛行ユニット【ウェリエル】起動。各部動作確認」
『【ウェリエル】起動。魔力残量六二パーセント、翼部損傷二七パーセント。
やはり魔力回復も自動修復も間に合っていない。無理もない、ここ一ヵ月の出撃回数は四〇回を優に超えているのだから。ユリエ少尉を含めた四人一組で対地攻撃、臨戦待機、休息という
同様に出撃準備を整えたサクナ准尉、アイ准尉、ナナミ准尉と共に
飛行甲板に立てば今日も鉛色の空、雪混じりの寒風が吹き
「十二番機ミサキ准尉、【ウェリエル】発艦します」
途端、にわかに吹き付けた強風に煽られて姿勢を崩して危うく立て直す。続いて発艦したナナミ准尉とアイ准尉もあわや接触しかけて互いにごめんと声を交わす。
「みんな集中力が落ちてるよ。気を付けよう」
サクナ准尉の声に短く了解と答える。だがアイちゃんからの応答が無いのはそれほど疲労しているためだろうか。
灰色の海の上を方位〇-三-〇へ十数分、前方に複数の
「カンナちゃん、助けに来たよ!」
天使の数は六機、カンナ隊の四機と合わせて数の上ではこちらが優位に立ったことになる。心理的な面も含めて形勢逆転と言って良い、のだけれど。
「コナがやられた!」
「え……?」
カンナ少尉の返答はごく短かった、だが私の頭がその理解を拒む。『魔女の森』の同期だったコナちゃん、ヨイザカ基地への配属も三魔戦への転属も一緒だったコナちゃん。もはや腐れ縁と言うしかないあの子が、私のいないところで消えてしまった? もうどこにもいない?
「着水しただけだ! きっと生きてる!」
一瞬空白になった視界に色が戻る。停止していた脳が都合の良い結論を導き出す。そうだ、あのコナちゃんが死ぬわけがない。また一緒にくだらない映画を見て、
「了解! 当空域を制圧する!」
疲労を忘れて戦意を
「おーい」
コナちゃんは
「心配したよ。無事でよかった」
「いやあ、あんまし無事じゃないんだけどね」
いつものように淡々とした声に乱れはなかったけれど、その体を海面から
彼女は後頭部、背中、臀部、簡単に負傷箇所を確認しただけでも三ヵ所の裂傷を負い、黒い
さらに飛行ユニットは左の翼部を激しく損傷、本体に大きく歪みが生じているばかりか、愛用の
第三魔女航空戦隊 コナ・アガサ准尉 負傷離脱、飛行ユニット【
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