敵ノ防衛線ヲ突破セヨ(二)
当然と言うべきか、新しい年を迎えたところで何かが劇的に変わることはない。クリスマスにはケーキが、お正月にはお
聖歴一〇九年一月中旬。『
理由の一つとしてNil-24攻撃ヘリコプター、通称【
それは戦車や歩兵戦闘車にとってまさに天敵であり、
これを受けて陸上軍司令官ガイ・テラダ中将は、本人
二年余りの前線勤務を経験している私だけれど、これまで
だからこうして地中に身を沈めてみると、ここは今まで私が経験したことのない戦場なのだと思い知らされた。舞い降りる雪が泥となり、誰かが流した血と混じり合って足元に溜まる。
人間の生存限界とされる上空数千メートルも、対空砲火の雨に晒される低空も過酷な戦場だと思ってきたけれど、ここは違う意味で人間の限界を試されているかのようだ。敵の車両や航空機に
「魔女さん、これをどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
二十歳前後と見える兵士から手渡されたのは金属製のマグカップ、その中には褐色の液体が三分の一ほど満たされている。
新たに掘られた魔女専用の待機場所。即席の屋根も折り畳み椅子もあるそこで温かいコーヒーを頂くなどどれほどの特別扱いなのか、誰も彼も血と泥にまみれて揉み合いつつ擦れ違う様子を見れば嫌でも理解できる。
そのような寒くて狭くて暗くて怖い蟻の巣の中で、異物である私は
だから寒さとコーヒーの利尿作用で先程からトイレに行きたいなどとは、とても言い出せるものではない。ここで言うトイレというものがどのような場所なのか、想像するのも恐ろしいという理由もあるにはある。
しばしの後、
地中から寒空を見上げればはるか上空に交錯する
自分がそこにいないのがもどかしい、もし戦場に散るならば泥の中ではなくあの大空でありたいというのは、あまりに過酷な地中から空を見上げれば当然の願いなのかもしれない。
一式重戦車の主砲が咆哮を上げ、歩兵戦闘車が大地を踏み荒らし、
間もなく敵軍から報復の砲火が上がり、一式重戦車が対戦車砲の直撃を受けて炎上しても、歩兵戦闘車が地雷を踏み抜いて横転しても、足を撃ち抜かれた兵士が同僚に引きずられていっても、私は七・七ミリ連装魔銃の黒い銃身を握り締めたまま黙然と座っていた。この弾雨の中に赤い魔銃弾が混じれば魔女の存在を知られてしまうためだ、陸上部隊にどれほどの損害が出ようと決して動いてはならないと厳命されている。
だから私は待った。無茶な突撃を繰り広げる味方の惨状に目を閉じて、時が来るまで。獲物が罠にかかるまで。
来たか? 来た。連続的に空気を潰すようなローター音、立ち上がり
「ウェリエル、翼部展開!
『翼部展開完了。
私は土中で数年を過ごした
見据えるは正面二〇〇〇メートル、陸上兵器に対して絶対の優位を誇る捕食者。【
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