イナ州南岸ニ橋頭保ヲ確保セヨ(六)
視界正面に捉えたやや大きめの個体は、第八位階【
左後方に位置するやや黄色味を帯びた個体は、第九位階【
彼らに挟み込まれた形の私はようやく落ち着きを取り戻していた。冷静に見れば大きさや
「武装を七・七ミリ魔銃に変更!」
『武装を七・七ミリ連装魔銃に変更します』
瞬間、
「見える……!」
正確に言えば見えてはいない、だが予測通りの攻撃であったことと、研ぎ澄まされた集中力が敵の気配を確実に捉えていた。振り返りもせずに魔銃の銃身だけを向けて応射、複数の着弾音とともに驚愕の気配が伝わってきた。
やはり『見えている』。正面上方の
状況は最悪だ。極寒の海に被弾着水した旧友を一秒でも早く救出しなければならない、背中の飛行ユニットはウェリエルよりも劣る
だが私には目的達成への道筋が確かに見えていた。細く頼りない道だけれど冷静にさえなれば決してたどり着くことは不可能ではない、そう自分を信じる。
意を決して漆黒の翼を広げ、一息に
「できる、私にだって……!」
右手に握った七・七ミリ魔銃を連射しつつ推力を全開、勢いよく右に体を
「
『
左手で
これは一度だけ見た天才
「浅いか……!」
僅かにタイミングが遅かったのか、
「コナちゃん!」
相棒の名前を呼ぶまでもなかった。完璧な位置取り、完璧なタイミング、完璧な射撃。コナ准尉が絶好の位置で必殺の
一撃必中。
私はそれを確認する間も惜しんで翼を傾け、基地航空隊の魔女が着水した地点へ。
とはいえ目印とて無い海上、星明りさえ届かない闇夜、しかも交戦の後では方向も距離もわからない。何らの手がかりも無いまま私は声を張り上げた。
「エリカ、応答して! どこにいるの!?」
肉声でも、近距離通信でも返事は無い。ただ波の音と零式の羽音だけが辺りに響き渡るだけ。
「彼に料理を作るんでしょう? 教えてあげるから! 基地でじゃがいもたくさん獲れたんだから! 今度一緒に……」
「ミサキ」
コナちゃんは涙声になってしまった私を
「発光信号」
その短い言葉が数秒の
黒々とした海面に微かな光が揺れている、波に飲まれてしまいそうなそれは飛行ユニットが着水すると自動的に放たれる発光信号。ユニットが生きているということは……
「エリカ! 迎えに来たよ!」
暗い波間から
これは使用者が生命の危機にあると判断した場合、戦闘用AIが自動的に展開する
『
「エリカ、もう大丈夫だよ。一緒に帰ろう」
同時刻。戦艦クラマ、接近中の敵艦隊に対し砲撃を開始。第三魔女航空戦隊およびナナイケ基地航空隊は既にザリュウガク城砦より発した天使と交戦中。
お腹に響くような衝撃が足元を揺らす。全長十四メートル重量七〇〇トン、私の両手でも抱えきれないあの三五・六センチ連装砲が今、猛然と火を噴いて砲弾の雨を降らせているのだ。
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