イナ州南岸ニ橋頭保ヲ確保セヨ(五)
時刻は既に
眼下の海面は紫から黒にその色を変えつつあり、空もそれを追うように夜を主張し始める。薄く
高度一二〇メートル、現在速度時速二八〇キロメートル。
「十二時方向に
既に日没を迎え発着艦が極めて困難になった現在、この空域に敵味方の
またしても前方に数条の白い光が走り、海面付近に虹色の飛沫が散った。直撃弾を浴びた
「こちら第三魔女航空戦隊、ミサキ准尉! 接近中の魔女、貴官および敵機をを捕捉した!」
この状況、必ずしも敵機を撃墜する必要はない。これで敵が逃げてくれれば良し、交戦するとしても友軍機を護りつつ後退すれば良いのだけれど……
「……サキ……?」
瞬間、背筋が凍った。酷い雑音の中、確かに覚えのある声が耳元のスピーカーから途切れ途切れに聞こえてきたのだ。
「エリカ!? 頑張って、助けに来たよ!」
「……て……たの? ……い、……ど……」
綺麗だけれど抑揚に
「
「……って……い……」
海面付近に白い光の線が伸びて、その先に七色の花が咲くのを私はこの目で見た。
それきり途切れたままの通信、夜の中に上がる着水音。私は届くはずのない声を一杯に張り上げた。
「
通常推力を全開にして時速三〇〇キロメートルを超えるところまで増速、七・七ミリ魔銃弾をばら撒きつつ上昇すれば二機の天使が追尾してきた。
「後方の天使の位階はわかる!?」
『画像を認識できません。位階不明』
「武装を
『武装を
ランドセルから
「くうっ……!」
刀身を押し戻され、そればかりか弾き返された。それを二度、三度と繰り返しても結果は変わらず、危うく失速しかけて懸命に立て直す。これは
『画像解析完了。第八位階【
私は
「あっ……!」
『被弾確認。
後悔の念に
「
おそらくそれは間に合わなかった、だが貴重な一瞬を稼いでくれたのは下方からの弾列。コナ准尉の放った魔銃弾が
辛うじて天使の挟撃から逃れた私はコナ准尉に背中を預け、肉声で感謝を伝えた。返ってきたのはやはり肉声、だがその内容は私への苦情だった。
「あのさあ。ミサキ、私のこと忘れてない?」
「後にしてくれない? 今は……」
「その事だけどさ。友達を助けたいなら、まずあんたが生き残りなよ。わかる?」
部屋でゲームをしているときと変わらない落ち着いたその声は、すっかり視野が狭くなっていた私の胸に
「うん……ごめん」
落ち着きを取り戻した私は一つ深呼吸、手短に謝った。
「おけ。じゃあいつも通りね、やる事は変わんないよ」
「ん」
私達は同時に翼を
打ち合わせなんていらない。返事は一音でいい。
この子はただの同僚じゃない、何度も共に死線をくぐった相棒だ。お互いが考えていることなんて、手に取るようにわかる。
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