イナ州南岸ニ橋頭保ヲ確保セヨ(三)
弱々しい陽光が黒々とした陸地の影を浮かび上がらせる。懐かしい故郷イナ州の大地、だがこの地で私を歓迎するのは両親でも妹でもなく、空を
イナ州南岸地帯に並ぶ地上砲台群は対艦用の大口径砲とそれを守る機銃で構成されており、コンクリートで造られたドーム状の
だから私達が無理に強襲する必要は無い。散開しつつ距離をとって艦砲射撃が始まるまで敵の目を引き付ければ良いと事前に言い含められている、のだけれど……
「見える……できる、私なら!」
まだだ。まだ足りない。突出を
回避運動を織り交ぜて急降下しつつさらに増速。対空砲火が集中するのも構わず突入して地上に降り立ち、自分の足で大地を蹴って
「――――――――っ!!」
私は何か意味のある言葉を発したわけではない、ただ反動に耐えるために食いしばった歯の間から音が漏れただけ。腰だめに構えた七・七ミリ連装魔銃を至近距離から乱射、人体に対して過剰すぎるそれは瞬く間に
『被弾確認。
隣の
だがそれも数秒間の出来事、
損傷した
これで四つめ。胸の奥でのたうち回る赤黒い何かが、海峡に
次だ、次は誰だ。息を殺して
「ミサキ! 戻りなさい、艦砲射撃が始まるわよ!」
私はこの時、もしかすると舌打ちしたかもしれない。だが対空砲火に
全機帰投を果たした三魔戦は艦砲轟く甲板を避けて格納庫へ。一時散会、全員兵装のまま自室待機を命じられたが、私だけが呼び止められた。
「ミサキちゃんらしくないわね、私の指示を忘れちゃったの? 無茶はダメよ」
ユリエ少尉の言葉は子供を諭すようだった、だから私はらしくもなく口答えしたくなったのかもしれない。
「無茶なんてしていません」
「そう? ウェリエルは何て言ってるかしら?」
「え……?」
魔力残量一〇パーセント、翼部損傷率六十八パーセント。
「大切な人の仇を意識するなとは言わないわ。でも今あるものも大切にしてね」
軽く肩を叩いて立ち去った隊長の向こうでは、黒猫のロクエモンを抱いたソロネが不安げな
一二月一九日、午後。
マヤ皇国第七・第八連合艦隊はスルガ海峡上空にて敵航空戦力を排除し、イナ州南岸地帯の砲台群を壊滅せしめた。これを
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