『祥』作戦発動
イナ州は皇国北方に位置する最大の島であったが、五年前にルルジア連邦の大攻勢を受け全域を失陥した。
その最大拠点である星形城砦ザリュウガクを攻略せよという『
戦艦クラマ、航空母艦カデクル、巡洋艦二、駆逐艦四、一式艦上戦闘機四〇機、九八式艦上爆撃機三二機、第三魔女航空戦隊一二名、以上第七艦隊。
巡洋艦一、駆逐艦四、揚陸艦二四、以上第八艦隊。
四式戦闘機三六機、魔女二四名、以上ナナイケ航空基地。
総司令官カナメ・ミギタ大将、第七艦隊司令官サダミツ・モダ中将、第八艦隊司令官ジロー・ウエノ中将、陸上軍司令官ガイ・テラダ中将。
尚、『
一、第七および第八艦隊は大規模演習と偽り出航し北上、ヨイザカ沖東二〇〇キロメートルの海上にて合流。進路を北北西にとりマヤ皇国領北端に到達、スルガ海峡に進入し、ナナイケ基地航空隊と連携してイナ州南岸地帯の砲台群を沈黙させる。
二、第八艦隊の揚陸艦より地上戦力を上陸させ、イナ州南岸地帯に
三、順次増強された地上戦力と第七艦隊が連携して占領地を拡大しつつ北上、最終的にイナ州南方の重要拠点である星形城塞ザリュウガクを攻略する。
「以上よ。何か質問は?」
ヨイザカ海軍基地総合管理棟二階、第二会議室。第三魔女航空戦隊隊長ユリエ少尉はさほど広くもない部屋を見渡した。
着席しているのは私を含めた魔女十一名。
正直なところ、話が急すぎてまだ理解が追いついていない。
演習の様子から近いうちに敵地上拠点を目標とした作戦が始まるのではないかと予想されてはいた、だが広大なイナ州の最大拠点を目標とする大規模作戦を、それも三日後に開始するとは思ってもみなかったのだ。
前回の『
「あの……」
誰も言わないので仕方なく手を挙げると、ユリエ少尉は小さく頷いて先を
「イナ州攻略をこの季節に進める理由は何でしょうか?」
私の故郷であるイナ州はこのヨイザカ市から一〇〇〇キロメートル以上、緯度にして六度から八度も北に位置しているため寒冷な気候で知られている。十二月ともなれば雪が降り、年が明ければさらに気温が下がり、地方によっては行軍どころか野営すら困難になる。今よりも格段に生活環境が整っていた旧世紀でさえ凍死者が出るほどの地域を、何故わざわざ冬季に攻略せよというのか。
「だからこそ意表を突くことができる、と上層部はお考えよ。もうすぐルルジア主力艦隊は氷に閉じ込められて出撃できなくなるし、イナ州とはいえ南岸地帯はそれほど寒さは厳しくないわ」
納得した訳ではないが、それきり私は沈黙した。隊長の言葉ではなく表情から
ユリエ少尉の言葉の後半は、まあ正しい。マヤ皇国よりも寒さの厳しいルルジア連邦では港が完全に結氷して、春を迎えるまで艦船の出入りができなくなる。
またイナ州南部は比較的温暖な気候であり、内陸部のように
そして言葉の前半は本人も信じてはいないだろう。イナ州とマヤ皇国を隔てるスルガ海峡は最も狭い箇所で幅一五〇キロメートル足らず、航空機や魔女であれば
察するにこの『
「他に質問は無いわね? 本作戦は航空戦力による奇襲という性質上、情報漏洩を固く禁じることを改めて申し伝えます。以上解散」
解散を告げるユリエ少尉の表情も声も、見たことも聞いたこともないほど硬い。彼女は私達をこの作戦に参加させることを快く思っていないのだろう、それほどの困難が予想されるということか。
渡された資料を破棄しつつ窓の下に視線を送ると、すっかり葉を散らした木々が
イナ州の冬はこんなものではない。数分も歩けば耳や手先が
それでも私は、と奥歯を噛み締める。
ただ逃げ惑うだけの人々の命を雑草のように刈り取った天使と、彼らに
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