力天使サリエル
「サリエル様、お帰りなさいませ」
へり下った笑いを浮かべる人間どもに
人間どもの言葉でシエナ共和国と称するこの国は、極めてあっさりと
限りなく浅ましい、だがそれで良い。
だが人間の全てがそうではなかった。面白いことに奴らは居住地によって異なる価値観を有し、様々な選択を見せることがある。現にマヤ皇国と称する国は、
もう一つ興味深いのは、人間に共通すると思われる『美醜』という考え方だ。
それは容姿だけでなく行動にも適用される。同胞のため勇敢に挑むことは美しく、強者に
今にして思えば、悪魔どもと雌雄を決する戦いには心が躍った。互いの存在を賭けて魂の咆哮を上げ、雄敵を滅し、仲間を蹴落としてのし上がる。第六位階に達し自我を得た俺にとって、明日をも知れぬが故に満たされた日々であった。
しばし忘れていたその日々を呼び覚ましたのが、魔女と申す者ども。悪魔の翼を受け継ぎ空を舞う奴らとの戦いは再び俺の血を
人間にとっては巨躯であろう俺にとっても巨大な扉、その両脇に立つ第九位階天使が
扉が音もなく開かれ、強烈な光と腐臭が吹きつける。さすがに俺とて目を
薄目を開ければ、外からの弱々しい陽光とは比較にならぬ
もはや頼りにならぬ視覚を排すれば、
「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな……」
その声、いや、音ですらない何かが頭の中で鳴り響く。意味を為さない、だが逆らいようもない強大な意思の塊。
微かに耳に届くぴちゃぴちゃという何かを舐め取るような水音。
巨体の全てを覆う純白の羽根、それぞれ獅子・雄牛・人・鷲に似た四つの頭部、背中に生えた六枚の翼、それらの中央で見開かれた巨大な眼球。
第一位階天使【
「
ぴちゃりと水音が
「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな……」
「くうっ……」
無理に言語化すればそうとしか
察するに俺が人間どもに敗れたことを、何らかの方法で知ったのだろう。怒り、苦しみ、
「ぐ……!」
俺は人間どもがそうしたように、粘つく床に額を
いや、そうではない。これは俺の心の内を見透かしたが故の仕打ちだ。俺はゼガリエルの懲罰を受け入れ、心からの服従を改めて誓った。
「くはっ……!」
突如として苦痛から解放され、俺は
呼吸を整え、自らが生きていることを思い出し、次いで蘇ったのは感情。屈辱、汚辱、憤怒、無念、耐えがたい激情が胸に渦巻く。
「醜い、なんと醜い……!」
まだ見ぬ『神』という存在は自らの姿を模して人間を作ったという、だが
生贄に捧げられた人間を溶かしては吸い上げるというあれは、魔界の最奥部にて滅した『蠅の王』と何ら変わらぬではないか。
あんなものがなぜ神の代弁者などと称しているのか、なにゆえ
――――いや、本当に醜いのは俺自身だ。強者に
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