ヴィラ島沖海戦(六)
聖歴一〇八年一〇月二日、
まだ空が
天候は快晴、海面は静穏。互いに戦機は熟したと見たマヤ皇国軍第七艦隊とシエナ共和国軍艦隊は航空戦力を展開、水上艦同士も徐々にその相対距離を縮めつつある。
既に航空母艦カデクルは濃緑色で統一された戦闘機隊の発艦を終え、爆撃機隊が順次発艦しているところだ。銀色の機体にいかにも不吉な色と形をした五〇〇キログラム級爆弾を抱え、重い荷物でも運ぶかのように飛び立っていく。
戦艦クラマ、三魔戦の母艦であるこちらも同じだ。十一名の魔女は既に上空にあり、最後に誘導された私が定められた手順に従ってユニット各部と周囲を最終確認。誘導員さんの退避を目視確認して戦闘用AIに命じる。
「周囲確認よし。翼部展開、発艦準備」
『翼部展開完了、発艦準備よし』
最後の魔女の発艦を見送るクラマの乗員に敬礼を返して、これから酸鼻な戦場となるであろう水色の空を見上げる。
「第三魔女航空戦隊 十二番機、ミサキ准尉【ウェリエル】発艦します!」
黒猫のロクエモンを胸に抱くソロネも、白いペンキで円の中に大きく三と描かれた後部飛行甲板も、全長二二二メートルの戦艦クラマも、あっという間に小さくなっていく。
「んうっ……!?」
瞬間、息が詰まる。予想していた以上の負荷に思わず姿勢を崩しかけ、飛行ユニットに身を任せることでようやく落ち着いた。
「そうか、推力か」
第八位階に昇格したウェリエルの魔力増加分を
嵐が過ぎ去った空には雲ひとつ無く、祖国より四〇〇〇キロメートル南の空はまだ夏の余韻を残したまま、海は碧色に輝いている。だが旧世紀には観光地であったというヴィラ島は自然の営みの美しさをそのままに、間もなく鉄と鉛と火薬と血が渦巻く戦場となってしまうのだ。
後の記録によると、この『ヴィラ島沖海戦』における両軍の航空戦力は以下の通り。
マヤ皇国軍は航空母艦カデクルより発した一式艦上戦闘機三三機、九八式艦上爆撃機三二機。戦艦ヒラヌマより一魔戦の魔女十二機、戦艦クラマより三魔戦の魔女十二機。
対するシエナ共和国軍は航空母艦アンシャンより
味方爆撃機の
九八式艦上爆撃機、略称九八艦爆は搭乗員から『九八棺桶』などという
しかもその無茶な攻撃を行うにはまず、敵戦闘機の妨害を排して敵艦隊の上空に達しなければならない。つまり私達の任務は仲間を無事に死地に届けるという、
「カデクル艦爆隊隊長機より三魔戦全機。パーティー会場への
「三魔戦隊長機よりカデクル艦爆隊全機。未成年への飲酒強要は重大なハラスメント行為と認識されたし」
だが。艦爆隊隊長クロウ少佐とユリエ少尉の近距離通信は緊張感のないもので、
その弛緩した空気を
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