ヴィラ島沖海戦(三)
『警告、警告。有力な敵対勢力の接近を確認。第五位階【
「えっ!?」
『有力な敵対勢力を確認。第五位階【
律儀にも同じ報告を繰り返す戦闘用AIの人工音声を聞いて、「嘘でしょ!?」という言葉を飲み込んだ。もし発していれば
黒っぽい点のように見えたそれはただ一機、瞬く間に大きさを増して迫り来る。
暮れなずむ空に浮かぶ姿は外見だけでなく、存在自体が他の天使と一線を画す威圧感を放っている。私は無意識に奥歯を噛み締めていた。
「サリエル……!」
第五位階
巨大天使ゾギエルのように危険な敵個体は『
全てを失ったあの日、ウェリエルの胸を貫いた天使。ソロネの姉を永遠に奪った怨敵が前触れもなく目の前に現れたのだ。私のこの感情は私自身のものなのか、それともこの身に背負うウェリエルのものなのかわからない。とにかく怒りと憎しみと恨みとが胸に渦巻き、真っ赤な濁流が意識を押し流していった。
「う……あああああ!!」
ろくに狙いをつけないまま二〇ミリ魔銃を乱射。その弾列は有効射程距離よりもはるかに遠い目標に触れるはずもなく、紫色の空に吸い込まれていった。そればかりか第七艦隊からの対空砲火を
「うわああああ!!」
たぶん何の意味も為さないただの絶叫を上げ、真っ
『被弾を確認。
「どけ。あれは私の獲物だ」
「サツキ少佐!」
第七艦隊を
「逃げ回るのもそこまでだ、サリエル」
「逃げ回るだと? 人間
激しい雑音に紛れて届いたその会話に、私は耳を疑った。
天使が
私はひとつ
「奴らの思想なんて、理由なんてどうでもいい。絶対許さない」
再び
ウェリエルの羽ばたきも対空機銃の銃声も、もう私の耳には届かない。サツキ少佐と絡み合うように光弾を撃ち交わし魔剣を交差させる、その恨み
かちり。確かな手応えと共に全身が震えるほどの強烈な反動、赤味を帯びた魔銃弾が続けざまに射出される。私の最大火力、二〇ミリ魔銃の赤い弾列が純白の怨敵に吸い込まれ――――翼を僅かにかすめて紫色の虚空に飛び去った。
私は油断したのだろうか、無念の
「うあっ!」
『二〇ミリ魔銃の喪失を確認。原因不明の衝撃により翼部損傷、
紫色に染まる視界がぐるぐると回転し、淡々と事実を告げるAIの人工音声も理解できない。確か機銃座が見えるほどの低空にいたはずだ、これではすぐに海面に叩きつけられて――――
「邪魔をするな。ひよこのうちに死にたいか」
「すみません……」
「あの!」
そのまま母艦クラマに降ろされた私は、旗艦ヒラヌマに帰投しようとするサツキ少佐を呼び止めた。
「あのサリエルという天使をご存じなんですか? 他にも意思疎通ができる天使がいるんですか?」
「貴官の知ったことではない」
にべもない返事に一瞬
「あいつはソロネの姉、ウェリエルの
「奴は殺すべき敵であり、お前のようなひよこが
それ以上の質問を拒否するかのように、サツキ少佐は飛び去ってしまった。
この時私は自分の
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