我、敵艦隊ヲ発見ス(四)
天使が放つ光弾は厚さ五ミリの鋼板をも撃ち抜き、人体に直撃すればまず即死、急所を外れても欠損は
その光弾をいくつも
幼い容姿ではあっても彼女は第三位階の悪魔、あの巨大天使ゾギエルと同格の存在だ。第九位階天使の光弾を多少受けたところでどうなるものでもない。
だがそのゾギエルとの戦闘で
「お姉ちゃん……」
赤味を帯びたソロネの瞳が怪しく光る。絶対的な力の差を理解し損ねたか、肉迫した天使が光の剣を振り下ろす。だが重戦車の装甲すら両断するそれを、幼い悪魔は素手で受け止めた。
「いいでしょ? いいよね? こんな奴」
そしてもう一方の手で、石灰石の彫像のように美しい天使の頭部をもぎ取った。無造作に、まるで
おそらく極限の恐怖を意味するのだろう、惨劇を
「――――――――――――!!!」
なに、これ――――ガラス窓を引っ掻くような、金属の管を何度も打ちつけるような、無闇やたらと鐘を打ち鳴らすような、これは音? 頭の芯を貫くようなそれは、思わず耳を塞いでも私の全身を震わせているように思えた。
私も初めて見るソロネの力、その声を背後から浴びた天使は一瞬だけ全身を震わせると、徐々に輪郭を失いはじめた。ざらりと粒の荒い塩でできた彫像のように風に吹かれ、重力に引かれ、形を失っていく。数瞬の後そこには何者も存在せず、ただ力の
消滅した。私達人間にとって圧倒的な侵略者である天使が、跡形もなく。
あろうことか、私が抱いたのは恐怖。助けてくれたソロネに掴まる手は冷たい汗に濡れていた。
「もういい、もういいよ、私は大丈夫だから。そんな力、もう使わなくていいから」
こちらを振り向いたソロネの顔は朱に染まり、でも赤みを帯びた黒い瞳は戸惑ったように揺れていた。
「……お姉ちゃん、ソロネのこと怖い?」
「怖くないよ。ソロネはいい子だもの」
「ほんと?」
「うん。ほんとだよ」
恐怖と緊張に
怖がってどうする、ソロネは私を助けたい一心で力を使ったというのに。国じゅうが、世界じゅうが悪魔を敵だと認めても私だけはこの子の味方だと、そう誓ったはずなのに。
「あっ……」
「どうしたの、お姉ちゃ……」
私が思わず声を上げたのは、遠くに二つの機影を認めたからだ。敵か味方か知れない影にソロネの瞳が再び赤く輝き、それを見た私は妹の正気を繋ぎ留めようと腕に力を込めた。
きらり、とその機影から光が放たれた。長く短く、何度も何度も繰り返し。
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「ワ・レ・ユ・リ・エ……ユリエ少尉だ」
こんなもの何の役に立つのかとコナちゃんは馬鹿にしていたけれど、ちゃんとモールス信号を覚えておいて良かった。ゆっくりと近づきつつある機影はユリエ少尉の汎用飛行ユニット【零式】に間違いない。思わず力が抜けてしまったのだろう、ずるりと落ちかけた体をソロネが両手で慌てて引っ張り上げた。
つい忘れてしまいがちだけれど、ソロネは悠久の時を生きる悪魔だ。それも一国の命運を左右するほどの力を有する上位の存在。
この子に助けられてしまった私が戦うなとは言えない、姉を殺された恨みや怒りを忘れろとも言えない。
でも、それでも、彼女には可愛いだけの妹であってほしいと願うのは、私の
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