我、敵艦隊ヲ発見ス(一)
ヨイザカ海軍基地より南西二二〇〇キロメートル、同盟国タンヤンのベイワン港にて補給を済ませた第七艦隊は南へ進路をとり、いよいよシエナ共和国の勢力圏内へと進入した。特に海や空の色が変わるわけでもないけれど、艦隊の空気が引き締まったような気がする。
「これで良し。今日も可愛いよ」
「わあい! お姉ちゃん、ありがとう!」
実のところソロネの正確な年齢はわからない。他の悪魔も自分の年齢を覚えている者はいない、彼女らの故郷である魔界とこの世界とでは時間の流れがずいぶんと違うらしいから。
ともかく彼女の肉体年齢は人間でいうと九歳から十歳くらい、精神年齢もそのくらいだろう。圧倒的な力を持つ第三位階とはいえ、こんな幼い子を戦場に連れて来たことに罪悪感を覚えてしまう。
「あまりはしゃがないで。お部屋が狭いんだから」
鏡の中で楽しそうにくるくると回るソロネを眺めつつ、次は自分の髪を整える。ショートボブは軽くて気に入っているのだけれど、私の髪は少し伸びてくるとすぐ外側に跳ねてしまうのが難点だ。時間をかけてもしょうがないので手早く
「武装ユニット固定。翼部展開、離陸準備」
『武装ユニットを固定します。翼部展開完了、離陸準備よし』
誘導員さんが退避、周囲の安全を確認する。やや強い南風、波は高いが発艦に支障は無い。
「
『
全幅五メートルに及ぶ暗灰色の翼を一杯に展開、ウェリエルの魔力を使用して力場を形成。吹き上げる風を掴み、ただ一度の羽ばたきで艦橋の半ばほどまで舞い上がる。甲板の隅で心配そうに見つめるソロネに手を振ってもう一度力強く羽ばたくと、
飛行ユニットを操作する戦闘用AIには
だから私は
「
とはいえ気は抜けない。索敵はもちろん、自分と母艦の位置を常に把握しておかなければならない。もし
「ウェリエル、今日はいい天気だね」
『当海域の現在の天候は晴れ、気温摂氏二十四度、湿度五十四パーセント』
「ソロネは夏が好きなんだってね。昨日はかき氷を食べて頭が痛くなってたよ」
『本日は聖歴一〇八年九月二十八日、
相手は
悪魔ウェリエル、無念を残して亡くなったソロネの本当のお姉さん。だから私は自分がどうなろうと、彼女に代わってソロネを守らなければならない。
水平線のむこうに入道雲が湧いている以外は上も下も真っ青だ。でも皇国近海とは透明度が違うのか、南の海は緑色が混じっているような気がする。
「コナちゃんは何て言ってたっけ、そうだ……」
肩の力を抜いてぼんやりと風景を
その時、視界の隅に違和感。水平線付近で黒い点が微かに動いたような気がした。
「映像を拡大、
『映像を拡大、
「所属と艦名を特定できる?」
『映像を解析中……シエナ共和国ホタン級巡洋艦一隻、およびヘイロン級駆逐艦一隻と推定されます』
やはり。二隻ということは哨戒中か。有力な情報を得た私は翼を傾け、即座に帰還しようとしたのだけれど――――
『敵航空戦力を確認。第九位階【
「えっ!?」
『繰り返します。敵航空戦力を確認。第九位階【
想定外の事態に思わず聞き返してしまい、律儀なAIから再度の返答が返ってきた。おそらく巡洋艦から飛び立ったであろう二つの翼ある人影、まさかこんな小型艦艇に天使が搭乗しているとは思っていなかったのだ。
「赤色信号弾発射!」
『赤色信号弾を発射します』
敵機発見、救援求む。それを意味する赤い花が夏空に咲く前に旋回を終え、推力を全開。視界左下の現在速度を示す数字が見る間に跳ね上がった。
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