三魔戦誕生(二)
『
私達に課されたのは発着艦訓練、集団連携訓練、総合演習、それから模擬戦闘。本来ならば少なくとも二倍の期間が必要な内容なのだが、戦機を逃してはならないとの判断で大幅に短縮されたらしい。
この日はヨイザカ沖三十キロメートルの洋上にて、実際に搭乗する戦艦クラマへの発着艦訓練。視界の端では航空母艦カデクルの艦上戦闘機が発着艦訓練を行っている。
風の強い洋上で降下しつつその様子をちらりと横目で見る、なんという神業だろう。
高度を落としつつ左旋回、失速寸前の低速で進入。揺れる飛行甲板に機体を叩きつけるように三点着陸、着艦フックをワイヤーに引っ掛けて急制動。基地の滑走路とは違い、二百五十メートルしかない飛行甲板に降り立つにはそれだけで教官レベルの技量が必要なのだそうだ。
「戦艦クラマへ、こちらミサキ准尉。着艦を許可願います」
「クラマ了解。ミサキ准尉、着艦を許可します」
それに比べて垂直離着陸が可能な私達は、発着艦にさほどの技量を必要としない。むしろ何の目印も無い海上で計器を頼りに母艦の位置を特定することの方が難しいくらいだ。魔女航空戦隊を運用するために後部副砲を取り除いて作られた十五メートル四方の飛行甲板に苦もなく降り立ち、一つ息を
「ひゃっほーう! ボクが帰ってきたぞー!」
「こちらクラマ。接近中の魔女、氏名を明らかにしてください」
「つまんない奴だなー。三魔戦副隊長、カンナ少尉のお帰りだあ!」
近距離通信を開きつつ着艦体勢に入ったのはカンナ少尉。だが進入速度が速すぎた上に強風に
何事かと驚く艦長以下の幕僚に敬礼しつつ宙返りで再び空に飛び出し、何事もなかったかのように私の隣に着艦。お腹を抱えて笑い出した。
「あはははは、艦長のあの顔! どう? 面白かったでしょ」
「……あれ、わざとだったの?」
「そうだよ! こんな誰でもできる訓練なんてつまんないじゃん」
などと
日付変わってこの日は全艦艇、全航空戦力が揃っての海上演習。
戦艦ヒラヌマおよびクラマの三十五・六センチ連装砲が空を震わせ、はるか遠くに水柱が上がる中を航空母艦カデクルから飛び立った一式艦上戦闘機四十機、九八式艦上爆撃機三十二機がそれぞれ蒼天に巨大な三角形を描く。これとは別に第一および第三魔女航空戦隊、各十二機ずつが低空から進入。
「これは訓練である。繰り返す、これは訓練である。敵戦闘機及び天使の妨害あり、各機戦闘態勢に入れ」
一魔戦隊長ルミナ少佐、三魔戦隊長ユリエ少尉からの通信を受けて各機散開し、擬似的な戦闘機動を行って再び編隊を成す。そのまま目標物である無人の老朽艦に接近し、隊長機に
続いて上空から突入したのは九八式艦上爆撃機。銀色の翼に夏空を映しつつ、六十度という信じがたい角度で増速しつつ急降下。高度五百メートルで爆弾を投下する挙動を見せた後、機首を上げて高速離脱する。最後の一機が本物の二百五十キログラム爆弾を投下して離脱すると、直撃を受けた老朽艦は海中で起きた爆発に耐えかねて二つに折れ、中央部から海に飲まれていった。
「ふふーん、どうだ! これでアンシャンなんて一発だ!」
カンナ少尉などはそう意気込んだし、正直なところ私もそう思った。カデクル飛行隊の練度は見事なものだし、私だって艦上という特殊な環境に慣れつつある。油断するつもりはないが勝算は大きいに違いない、と。
「ソロネちゃん、見てた? かっこいいよね、ぎゅーん! どーん! ってさ」
「うん。ちゅどーん! やられたー! って」
地上に降りてからもカンナ少尉は上機嫌で、迎えに来たソロネ相手に
「お前達が三魔戦か?」
「え? ええ。そうですけど」
「
静かに告げられたその言葉だけでなく、只事ではない威圧感に息を呑んでその顔と襟元を見る。
ほろぼろの飛行服に中線三条、少佐を示す階級章に
一魔戦の副隊長を務めるサツキ少佐。撃墜数八十四、カンナ少尉と並ぶ現役屈指の
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