皇国魔女航空戦隊(五)
亡くなったウェリエルという悪魔の妹は、私と同じくらいの年に見えた。怖いくらいに白い肌とまっすぐに伸びた黒髪が印象的な可愛らしい女の子、でもその赤みを帯びた大きな瞳はお姉さんの訃報を届ける前から
お姉さんの戦死と最期の言葉を伝えてもその表情は変わらなかった。悲しいとか寂しいという感情が無いのかなと思ったけれど、それは違った。
この子は私と同じなんだ。家族を突然失って、どうしたら良いのかわからなくて、ただただ悲しくて寂しくて、心に穴が開いてしまったのだ。
だが私達が置かれた状況は、ゆっくりと悲しみに浸ることすら許さなかった。
ウェリエルは第五位階、皇国でも数人しかいない高位の存在だったという。有力な悪魔の戦死は当然ながら、天使に対抗する貴重な戦力を失うことを意味する。
それを補うべく開発されたのが、未だに非人道的であるとして反対の声が止まない『特殊飛行ユニット』だ。全て人工物で作られた
ただしそれは誰にでも扱えるというわけではなく、飛行ユニットと操縦者の間には相性というものがある。どういう訳か適合者のほとんどが若年の女性であり、生前に交流があった者と相性が良い傾向にあるらしい――――つまり当時十一歳の少女であり最期に思いを託された私が、飛行ユニットに改造されたウェリエルと最も相性が良かった。
ウェリエルを駆る魔女となるべく『魔女の森』と呼ばれる養成機関で三年間の訓練を積んだ私は、卒業後ヨイザカ海軍基地に配属され、ソロネと再会した。
だが当初ウェリエルを背負った私に、彼女は何の反応も示さなかった。きっとあの日のことを思い出したくなかったのだろう。
ソロネはウェリエルを上回る第三位階悪魔であり、本来の姿を現せばこの基地の誰よりも強大な存在だ。でも唯一の救いであったはずの姉を失い、度重なる天使との戦いに幼い心身を擦り減らす彼女は痛々しく、悲しく見えた。
姿を見かければ無視されても拒絶されても話しかけ、少しでも彼女の近くに
◆
『
その機械的な音声に顔を上げる。ユニットの分解清掃と調整をしようとして、いつの間にか眠ってしまったようだ。
「翼部収納、全機能
『翼部収納。
沈黙した黒いランドセルを両手で持ち上げ、工具とともに専用の収納庫に収めた。その両側には折りたたまれた暗灰色の翼が生前と変わらぬ艶を保っている。収納庫の分厚い扉を力を込めて閉め表面に掌をかざすと、小さな電子音が正常に施錠されたことを告げた。
「よう、ミサキ。ウェリエルは元気かい?」
格納庫を後にした私を、メリリムという赤毛に褐色の肌をしたいかにも
意思疎通が不可能な天使とは対照的に、悪魔の多くは人間の言葉を理解し、積極的に交流を図ろうとする。もはや彼らの棲家であった魔界は天使に
悪魔には代表者という存在がいないため、彼女らは個人の意思で皇国と協力関係を結んでいる。その形は様々で、皇国軍に所属する者もいれば一般人の立場で自由に行動する者もいる。メリリムは前者でソロネは後者といった具合だ。
「うん。今寝かせたとこ」
その表現が面白かったのか、唇の片方だけを吊り上げるメリリム。この子は生前のウェリエルの戦友で、年齢を聞かれると十八歳と答え、お酒をぶら下げているときは千と十八歳と答える。
「バケモンと戦って帰還してすぐ調整たあ、真面目だねえ」
「だって、またいつ出撃になるかわからないもの」
「おや。そいつは説教かい?」
酒瓶を掲げておどけるメリリムに苦笑を返す。基地内は禁酒というわけではないし彼女の隊は
ウェリエルだけじゃない、ソロネだけじゃない。彼女のように皇国に協力してくれる悪魔は他にもいる。
悪魔は死して魔女の翼となり、魔女は悪魔を模して空を飛ぶ。魔女と悪魔は一心同体、
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