悪友へ

ゆかり@色々

本文


悪友へ

 頼まれていた小説を書き上げた。簡単なものですまないが、この手紙に同封したので是非読んで欲しい。

                想いを込めて



 物書きの友人…というよりやんちゃ仲間から届いた手紙をまじまじと読む。簡易的に用件だけ書いてある文章はあいつらしくて少しばかり笑いが出て来る。そして、書かれている内容に更に笑いを深める。…ちょっと前に、こんなのが読んでみたい、と軽い気持ちで依頼したコズミックホラー。時間かかるかも〜とは言われたものの、思ったより早く届いたそれに胸の高ぶりが収まらない。

簡単の文字通りに枚数はそう多くない。文字数的にはそこそこありそうだが、面白そうだ。

 俺は、椅子を引いて今すぐにその小説を読む事にした。深呼吸して、がさり、と1枚目に目を通す。


 こんにちは、いやこんばんは?この手紙を読んでくださってありがとうございます。とても嬉しいです。この手紙は一種の記録です。何の記録かは読んでいけば分かると思います。

 まず、僕は考古学者として様々な遺跡や古い文献などを研究していました。もちろん、フィールドワークも欠かさず、色んなところに足を踏み入れては何か歴史的に価値がある物がないかと探してきました。「それ」はそのフィールドワークの一環で、とある古い文献に書かれている物……あぁ、失礼、生物を見つけようとしていた時に会いました。その文献を頼りに、発見されたという地域に赴き、現地の人からの言い伝えを調査し、結果的に得られた情報により、とある大きな海底洞窟に狙いを定めました。一人では行けないので、その辺りに詳しい人を雇い、きちんとした安全管理と装備を整えて波の状態も良さそうな時に調査を決行しました。…普段は山などが多いので勝手が分からず、一回か二回くらいで終わらせようとかなり無茶なスケジュールでしたが。とにかく、朝早く準備して、海底洞窟に潜り込みました。水深的にはそんなに深くなく、そこの海特有の特徴として透き通った水のお陰で入り口辺りはとても快適に調査する事が出来ました。しっかりと生態系があるようで、ちらほらと小さな魚達が僕の横を通ったり家と思わしき岩陰にひっそり潜んでいたり。

 もし、僕が生物学者ならどんな魚が居るのかを詳しく調べるのでしょうが、残念ながら違うのでそのまま洞窟の奥へと進んでいく事にしました。

いくら、そんなに深くなく、透き通った水だろうが奥へ進めばそこは真っ暗です。海という空間によって青みがかっているものの、懐中電灯なしでは進む事の出来ない暗闇。そして、うっかりすると沈んでしまうか息が出来なくなるかのどちらかというのは山とは全く違う怖さがあります。それでいて、山と似たような怖さを感じる矛盾に薄気味悪くなってきた頃、僕は見つけてしまいました。

 洞窟の壁に何かの文字が書かれていたのです。日本語ではない事しか分からない奇妙な文字がずらり、と一面に書かれていました。真っ暗とはいえ、こういった洞窟に何か文字がある事自体はそう珍しい事ではありません。言い伝えが残っている点でも、誰かがここに残したと考えるのが自然です。…しかし、それなら何故日本語ではないのでしょう?この奇妙な文字は一体何を表しているのでしょう?もしかして、これは歴史的発見なのではないのでしょうか?僕は迷う事なく、その壁を持参した防水機能のついたカメラでパシャパシャ写真を撮りました。 後から解読出来るならしたかったのです。

 その時、視界に何かがちらつきました。小魚などではない、暗闇の中に光る大きな何か。直感的に「それ」に出会ってしまったのだと察しました。そして、それを理解してはいけない事も。ある程度の写真を撮ったのもあり、大急ぎで入り口辺りまで戻り、待機してくれていた雇ったガイドと共に海から浮上しました。何か言いたげなガイドを放置して、現実から逃げる様にせめてもの成果に縋る様に撮った写真を確認しました。…えぇ、えぇ、読めなかったはずの文字が、奇妙な文字としか認識してなかったはずの文字が、すらすら、と読めてしまったのです。内容的にはかなりセンセーショナルな、この世を揺らがす様なとんでもない事がつらつらと書かれている物でした。こんな事を、知ってしまっては生きていけない、「それ」と出会ってしまった時よりも強い直感にもう自分が手遅れな事を「理解」してしまいました。

 ずっと山に篭ってれば良かった、あんな文献見つけなきゃ良かった、様々な後悔をしました。しかし、「彼の王」に選ばれてしまったら、所詮人間ごときではどうする事も出来ません。僕は、そろそろ死にます。これは、雇ったガイドに介抱されながら急いで書き上げた「記録」です。

 この手紙を読んだ人は、くれぐれも「彼の王」に選ばれない様に祈っててください。また、ただの「記録」として読んでください。決して、理解しようとしてはいけません。

 今も、僕の目の前には、



 どうやら、ここで終わりの様だ。海か山かならどっちが好き?と聞かれた理由が分かりつつ、その半端なところで終わった小説をまじまじと見る。流石、こだわりが深いだけあって文字も乱れがちで急いで書いたのが伝わってくる。あいつに頼んで良かった、なんて思って手紙を机に置く。

 ふぅ、と息を吐いて、読み終わったからかやって来た眠気に椅子に座ったまま、目を閉じる。意識が沈み、真っ暗闇が訪れる。そこで、ふと、気づいてしまう。…そういえば、手紙読んだのって…、


   

     「気づかなきゃ良かったのに」 

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