第14話 騙された真っ白兎

 翌日。経済大臣、天野月太郎の邸宅の前には顔面が真っ白でどでかく雑に口紅が塗られたうさぎと大月誠の二匹の兎が立っていた。

「ナ、ナンデ…?」

「え?何が?」

「なんで俺はこんな格好に??」

「え?お前のためだよ」

望月は顔面が蒼白になり、先ほどからずっと大月を問いただしている。ただでさえ真っ白な顔なのだから顔面が蒼白になってはもはや病人に見えてしまう。加えて顔面だけが真っ白なので体全体を俯瞰した時には違和感しか感じない。望月がこのような状態になったのにはさかのぼること二時間前―。

 望月は朝食にアスパラガス炒めを頬張ったあと、約束通り大月の家に着いた。するとまってましたと言わんばかりに家の中に通され、とある部屋に入れられた。その部屋はいつもお邪魔していた大月誠の部屋ではない。ここは何の部屋かと聞いていると雷のごとくドアを勢いよく開けて誰かは入ってきた。ビクッと耳がなった後、振り返ると例のゲスの妹さんが仁王立ちしているではないか。その現状をみた望月には刹那に嫌な予感がした。

「待ってたで!ATMさん!ここからは私の出番や!」口角をにやりとあげまるで獲物を見るかの如く望月を見てくる。望月は委縮し、びくびく震えが止まらない。まさに勘は当たっていたのだ。


 結果、現状である。なぜか謎の顔面蒼白にされ、口紅が塗りたくられ、耳元に淡いピンク色のリボンをつけられた。施術を受けた二時間後の今もまだ嫌な予感は続いていた。

「じゃあ、望月、はじめようか」

え?ナニヲ?と聞き返すことも許さないスピードで大月はインターホンを押す。

「おや、どちらさまかな」

「あ、先ほどご連絡いたしました、中央月見商事社長の執事ですが、お嬢様が到着いたしました」

「ああ!そうでしたか!ぜひお入りください!今、門を開けさせます」

すると門番が出てきて、身長の五倍ほどある大きなもんがゆっくりと開けられていく。

「え?げ、月光商事?なんのこと?」。

「まあまあ、ついてきなって」事態が飲み込めない望月は言われるがままに颯爽となかに入っていく大月についていくしかなかった。門の中には美しい花々が咲き誇り、庭園が広がっている。もはや家とは思えないスケールだ。大きな橋の下には小川も流れており上を見上げるとなんと豪快な滝まである。もはや自然が家のよう。望月はこの家を売れば何本の人参が買えるのだろうと妄想を膨らませていると次第に目の前には大きな邸宅が出現した。もはやそれは城のような見た目で区長の家とは比較にならないほど大きく、まじまじと威厳を感じる。

 奥の方から執事のような人が出てき、邸宅のなかを案内される。大きすぎるので移動するのでも大変だ。しばらく歩くと望月の二回りほど大きな扉の前に来た。

「ご主人様はこの部屋にいらっしゃいます」。執事は滑らかな口調でしゃべった後、扉を開けた。すると中からは昨日写真でみた穏やかさと趣のある白髪を生やした兎が出てき、突然、望月に握手した。望月は何事かと硬直していると天野月太郎は喜んだ様子で話し始めた。

「あなたが月見花子さんですね!いやあ、彼氏の天野月次郎がお世話になっております!何か迷惑なことがあったら何なりと言ってください!」

「へ…???」望月は呆然とした様子で横でにやにやしている大月の顔をみる。いつになくにやりとして気味が悪い。まさに勘は的中したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

治天のうさぎ 末人 @matsujin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ