第13話 漂うフェイクとアンモニア

 部屋には望月と大月の二匹が取り残された。

「こっわ~、お前あんな脅迫されてよく反論できるな。」大月が気が抜けたように話し始めた。

「怖いわけないだろ。俺からしたらあんなの子羊さ」。かなり強気でいるがよくよく見ると望月の下半身が濡れている。気づいた大月はこいつやりやがったなと鼻をつまんだ。

「ったく。この部屋もなんだよ。税金つかってこんな贅沢な暮らししてんのかよ」。アンモニア臭が漂うので大月はなるべく室内を歩かないでほしいと思うがそんなことはお構いなしに望月は部屋を見渡していく。おそらくさっきのやり返しも兼ねているのだろう。たまったもんじゃない。

「これがあいつの言ってた経済大臣のパパか。父親は優しそうなのに、息子はあれかよ。遺伝子なんてほんとにあるのかねえ」。望月は壁に掛けてある家族の集合写真を見ながら言う。前には先ほどの天野月次郎、その後ろには見るからに穏やかさ満点の経済大臣の父、天野月太郎がにっこりと写っている。髪は白髪で雰囲気もマイルドで良い。

「そういや、天野月次郎って結婚してんのかな」。望月がぼそっという。家族写真を見ると母親、祖母らしき人は映っているが妻らしき人は写っていない。

「確かに俺も聞いたことないな」。

 しばらく静寂な時がながれる。

「それだ!!!」突然の大月の大声にびっくりする望月。どうしたのだろうかと思うと次の瞬間、鼻をつまみながら望月の傍に近寄ってきた。

「明日、しっかり水浴びしてから俺の家にこい!」その声は鼻声だった。





 「このトウモロコシおいしいですねえ!」

 天野月次郎は望月に激怒したのちにとある高級ホテルに到着。そこで出された高級食材をほおばっていた。面会のためだ。その相手は月面新聞社会長、紙月五郎(かみつきごろう)だ。まさしく大久保利通のような髭を持っており、威厳がある。月面新聞は歴史ある新聞会社でメジャーなほかの新聞社を抑えトップの売れ行きを誇っている。そのメディア界の長ともいえる人物と会食している。

「ところで今日は大ネタをもってきたのでぜひお宅のところで使ってほしいんですよ」。

そういうと天野はB5の封筒から六枚ほど紙をだしてきた。そこには驚くことに望月家、大月家に対して批判的なフェイクニュ―スがずらりと書かれている。紙月会長はパラパラと紙をめくりじっくり内容を見る。

「天野さん。うちは確信性の高いニュースしか報道しませんよ。社に泥は塗りたくない。なにせ先代から代々受け継いだものなんですから。しかもこんな子会社のニュース大きいネタでもなんでもないですよ」。

「そうはいっても会長。近年はデジタル化が果てしないスピードで進んでいます。紙媒体に主力を置く御社はこれからそれはまあ厳しくなるでしょう。そんな中で法務相を敵に回したらいったいどうなることやら。わ・か・り・ま・す・よね?」すると天野は席を立ちあがり会長の後ろに立つ。すると肩をもみ始めた。

「これを報道してくれるだけでいいんです。してくれた時の報酬はそれはもう、かつてないほどに…。ね?お願いしますよお」。

 紙月は終始黙っていた。

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