1話 「ネコガミ様、出会う」


目を覚ますと知らない天井が広がっていた。


何が起きたのか、あまり思い出せずにいると襖の向こうから走る足音が聞こえた。


その音は次第に近付いてきて、この部屋の前で止まる。


そして、襖が開かれ、姿を表したのは小さな猫の様な耳が生えた子供だった。


「目を覚まされたのですね。2日間ほど寝たきりだったので主様も心配しておりました。」


状況を整理する間もなく、新たな情報を与えられ困惑することしか出来なくて、きっと今の私の顔は不安の色でいっぱいかもしれない。


そんな、表情を読み取ったのかは分からないけど、その子供は口を開いた。


「きっと状況が分からず、不安を感じているのでしょう。先ずは2日前の出来事、この場所や僕についての説明をします。」


何処から出したのか不明だけど、分かりやすくまとめられたボードを子供は私に見せた。




簡単に今の状況をまとめると、2日前に起きたあの悪夢の様な光景は嘘ではなかった様だ。


私の母は見知らぬ男性に殺された。


そして、その後殺されそうになった私を助けたのが、そこにいる少年の主様らしい。


主様の名前は如月(きさらぎ)。


そして、少年の名前は沙久(さく)。


次々と出てくる情報を混乱する頭ではどうにも処理が出来ずにフリーズしそうになった。


だけど、これだけは分かる。


これからは1人で生きていかないといけないということだ。


母子家庭だった身。唯一の家族だった母がいなくなってしまい、頼れる人が居ない。


自然と涙が出てきていた。


そんな私に驚いたのか、沙久君は焦ったように。


「ど、どうしました!?何か不都合でも…?」


しばらくの間、上手く言葉が出てこなかったのだが、何とか沙久君の誤解を解く為、言葉を絞り出そうとした瞬間だった。


襖が開いたかと思えば、電灯に照らされてキラキラと輝く白髪でこれまたケモ耳があり、黄色い宝石みたいに綺麗な瞳をした男が現れた。


見惚れてしまいそうな程、整ったその容姿で無表情のまま私をじっと見つめた後に、話しかけてきた。


「目が覚めたのか?」


その問いかけに先程まで流していた涙は引っ込んだ。


不思議な程に、落ち着く声だったからだろうか?とにかく私の中にあった悲しみはとっくに消え去っていた。


「はい……その、沙久君に聞きました。貴方が私を助けてくれたって…ありがとうございました。」


「俺は大した事はしていない。」


「で、でも…!?」


そこで如月は何の前触れもなく座り込んだかと思えば、そのまま寝息を立て始めた。


突然の事で呆気にとられていると、沙久君が困った表情で、


「すみません。主様はなんと言いますか…マイペースな方なもので…お昼寝をしてしまいました。」


「えっ!?」


まさかのお昼寝という言葉で更に呆気にとられてしまった。


なんだか拍子抜けしてしまい、私自身も緊張が解けてリラックスしてしまった。




時間は流れ夜になった。


沙久君はここで暮らせばいいと言ってくれたけど、これ以上恩人である如月や沙久君に迷惑は掛けられない。


夜中にこっそりと出ていこうとしたけど、急に誰かに声を掛けられてしまった。


「今夜は満月だ。七夜、共に見ないか?」


「…」


「?」


私は彼の問いかけに答えることができ無くて、口を噤んだ。


私の中にある1つの疑問が頭の中を駆け巡り、それどころじゃないからだ。


分からない。何故、私は助けられたのか。


彼(如月)は、ここの廃神社の神様らしい。


神様は人々の信仰を失えば、力は衰え、しまいには消えてしまう存在。


そんな後がない彼が何故、私を…。


「1つ聞かせてください。」


「何だ?」


「私を助けた理由は何ですか?」


「それは、七夜を守りたかったからだ。」


彼はそれだけ答えると、私の手を引き、縁側に座るよう促した。


それから、私の膝に頭を乗せれば眠り始めた。


これじゃあ出て行こうにも、動いてしまえば彼を起こしかねない。だからか今夜は諦めてここに居ることにした。




猫のように掴みどころがなく、猫のように自由に振る舞い、猫のように癒しをくれる。


そんな猫神様との出会いを果たした、私の物語はこれからも続いていく。


この廃神社でいつまでも。

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ネコガミ 癒月 @kinnunn

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