音にふりむく

@kanenoko1023

第1話 私の居場所

2017年 中学3年の夏



「巴菜さ、合唱部興味ある、、?」


「まあ、それなりにかな。音楽は好きだし。なんで?」


「今、部員募集中でさ、巴菜はどうかなって思って」


「ちょっと考えてみるわ」



小学校の時、合奏部で仲の良かった彩乃からの誘いだった。



正直、中学入学のときに合唱部は兼部しようか迷ってたけど、自分のキャパでは無理だろうと諦めたものだったから、おいしい話だと思った。


だけど、今の私の成績で高校入試の年の夏休みに部活をやっていいものなのだろうか、、。




「悩んでるんだったらやってみた方がいいよ!」




私の心配をよそに元気よく言う彩乃だが、彩乃は成績がいいから少し複雑だったが、彩乃の勢いに押されたという言い訳を自分の中でつけ、入部届けを出した。



夏休み7時から10時までだけの練習だったが、みんなで早い時間に合唱を作り上げるという、なんとも青春らしい景色に感動しながら、充実した毎日に勉強も捗っていた。






朝、車や人のいない通学路、同じ時刻に見るおじさん、朝練で来てる陸上部、鞄に詰め込む楽譜、ペン、水筒。


帰り道、入道雲から照りつける日差し、涼みつつコンビニでお昼ご飯を選ぶ時間、楽しみなYouTube、勉強しないとと図書館へ向かう時の憂鬱。


夕暮れ、今日も勉強頑張った、YouTube更新されてるかな、塾の宿題片付けなきゃ、夜ご飯なんだろう。





この全てが、合唱部に入った夏休みにしか見えてこなかった景色で、全てが目新しくて私の青春そのものだった。








全力で取り組むとは、


それを楽しいと思えて


初めて全力で取り組んだと思えるものだ。








だからこそ。






だからこそ、合唱部を引退したあの日から。




勉強だけに集中しなければならなくなったあの日から。







音楽に熱中しても何にもなれないじゃないか。




お前には彩乃と違って音楽の才能もないじゃないか。









自分で音楽への熱中心に蓋をしてしまっていた。

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