久しぶりの制服、久しぶりの顔ぶれ

dede

君は何て言うかな?


久しぶりに袖を通した制服は、お母さんがちゃんとアイロンを掛けてくれてたらしくパリっとして気持ちよかった。でもすぐ汗で湿っちゃうんだろうなぁ。イヤだなー、学校行きたくな……くはないけど、外暑そう。荷物も多いしな。でもなー、今日提出の宿題ばっかりだし。怒られるのはイヤだしなぁ。

……やっぱ変かなー?最後にもう一度玄関の前の姿見で前髪を整えると、荷物を詰め込んだセカンドバッグを背負い直してドアを開けた。


「行ってきまーす」


ドキドキしながら下駄箱で履き替えていると早速声を掛けられた。

「おっはよー、ユキのん。一瞬誰だか分かんなかったよ、バッサリ言ったねぇ」

「マジか?あ、ほんとユキのんだ。おはよー、マジ分からんかった」

カナりんはニコニコと、ソータ君はニヤニヤして久しぶりの挨拶を交わした。うぅ、恥ずかしいな。

「二人とも、おはよう。あー、やっぱり似合わなかったかな?」

ああ、それとも汗でべショッて潰れたりとか、逆に風でブワッとハネハネだったり?

今すぐ鏡でチェックしたいけど両手は荷物で塞がってるし間近に鏡がないから。

「あ、ごめん。不安にさせたよね。大丈夫大丈夫、すごい似合ってるよ。な、ソータ?」

「うんうん。ますますユキのんの可愛さに磨きが掛かったね」

「お?私の前で他の女の子を可愛いと褒めますか?」

「いや、話振ったのお前だし。ってか、言わないのも下心あるみたいでヤだろ?」

「ふふ、相変わらず仲いいね」

カナりんは照れくさそうに私から目を逸らした。

「いやー、普通。こんなの普通だって。ほら、それより早く教室行こ?」

「うん」

重たそうに荷物を教室に運ぶ他の生徒たちに紛れて、私達も教室に向かうのだった。


ドキドキしながら教室のドアをくぐると、真っ先に窓際の一番前の席を確認する。

席に座っている姿を確認すると、パァッと世界が明るくなった気がした。

ふと横に目を向けるとカナりんがこちらを見てニヤニヤしてた。見られてたかと思うと顔がとても熱くなる。

「オッス、リョーヘイ!」

ソータ君の声にすぐに反応したリョーヘイ君はノートから顔を上げると大きく手を振った。

私達は彼の席を取り囲んだ。

「オッス、ソータ、カナりん、それに……ユキのん?」

私の姿を見たリョーヘイ君はとても驚いていた。

「お、おはよう、リョーヘイ君。えーと、……どうかした、かな?」

言いながら、ちょっと私の目は泳いだ。

1ヵ月振りのリョーヘイ君は、最後に見た時よりも更に焼けていて、髪は最近切ったのかこざっぱりしていた。

うん、前よりももう少しかっこよく、なってるかも。

リョーヘイ君は少しぶっきらぼうに言った。

「髪、切ったんだな」

「うん。……やっぱり、変かな?」

すると慌てた素振りで

「え、いや、違うよ!でもほら、一学期の印象が強いから驚いたって言うか」

そこへカナりんが口を挟んだ。

「で、結局可愛いの?可愛くないの?」

「え、私、そんな事聞いてないよっ!?」

でも聞きたい!

「さあ。さあ。さあ。ほら、口を割ってごらん?さぁ」

カナりんがリョーヘイ君ににじり寄っていく。リョーヘイ君は椅子ごと後ずさるけど、壁際まで追い込まれた。

……うーん、さすがに申し訳なくなってきた。なので助け船を出す。

「リョーヘイ君、一学期よりも更に焼けたね」

「え、そうかな?」

リョーヘイ君が答えた。話題が変わった事にあからさまにホッとしていた。

でも聞きたかったな。まあ、ひとまず変じゃなかったてだけでも満足しようか。

「あんま変わってないと思うぞ?」

「そりゃ、ソータは夏休みの間も会ってたからでしょ?私からしたらだいぶ黒くなってるよ?」

「ね?」

ソータ君は分からなかったみたいだけど、カナりんは分かってくれた。

「でもそういう『夏休みで変わった』って感じ。イイね、新鮮味があって。私とソータは夏休みも毎日会ってたから代わり映えしなくってさ」

そう言ってカナりんは不平を漏らしたけど

「毎日?」

「そ」

「おじーちゃんちに行くって言ってなかった?」

「行ったよ?」

カナりんは不思議そうに答えた。

「え、その間会えなかったんじゃないの?」

「いや、俺もついてったし。ちなみに、うちのじーちゃんちにもカナりん一緒だったから」

その返答に私とリョーヘイ君は一瞬絶句する。

「「いやもーそれさー、ほとんど」」

「家族じゃん」「夫婦じゃん」

私とリョーヘイ君は感想が割れたのでお互いを見る。

「夫婦……?」「家族……?」

「「……確かに」」

その様子を見て、今度はカナりんが呆れた声で言った。

「その、意見割れても結論がそれになる辺りがアンタ達らしくて、いやー日常に戻ってきたって感じして落ち着くわー」



「あ、そろそろ体育館行かないと」

「ホントだ」

私達は慌ててリョーヘイ君の席から離れて、体育館に向かおうとする。

と、その時誰かから肩を指でちょんちょんと突かれた。振り返ると椅子から立ったリョーヘイ君がすぐ間近にいた。


(あれ、なんか前と雰囲気が違う気が……)


と、そんな事を思っていたらリョーヘイ君が私の耳元に顔を寄せてきた。そして小声でそっと


「さっきはごめん。髪、似合ってて可愛いから」


と言ってパッと離れた。

そして、「それだけ。先行ってるから」と小走りに体育館に向かっていった。


そこで気がついた。ああ、背、伸びたんだ。だから前より視線の高さが違ってたんだ。

それにしても今のはズルい。本当に今日学校来て良かったーと強く思ってしまった。


ふとそこで、視線を感じて振り返る。

カナりんとソータ君がニヤニヤ笑いながら私を見ていた。

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