第49話
王后が寂しそうに笑った。
「そう、ね。淳風様は知っていたわ。貴方が王位を望まない人だということを。貴方を見ていた。……幼い貴方から、母親を奪ったことを後悔してらした」
「それは、主上のせいでは」
「『止められなかった事実は変わらない』とずっと悔いていて。…だけど、貴方が王城に来てからは『今後のことを考える』と言って、何度か遺言状を書き直していたわね。…『身内があまりに碌でもないようなら、稜星様に王位を戻した方が良いのか』なんて、本当に考えていたこともあったのよ」
再び、王族たちがざわめく。
「え。要りません」
「でしょうね。……今のは、私の脅しよ。淳風様は実際には書かなかったもの。本気で王位を稜星様に戻すのだったら、淳風様は御存命中に次期王として指名していた筈よ。公表して、正式に決めた方が話が早いもの。そうしなかったということは、それなりには自分の身内に期待してるということよ。…分かった? 貴方たち。稜星様に嫌がらせするのではなく、もっと己を磨きなさい!」
後半は部屋に居る王族に向けてだ。堂々と周囲を脅す王后。でも、真っ当だ。王族たちは怯んだ。ざまぁみろ、と思ってしまう自分はやはり性格が悪い。でも、良い。この場合はそう思うことが正しいのだろう。
部屋の空気が落ち着いたところで、稜星が声を上げた。
「俺がここに来たのは自分と周りの人間の、身の安全について一言物申しておきたかったからです」
背筋を伸ばし、彼は語る。
「母が亡くなった時…殺された時、父はそれを訴え出ることが出来ませんでした。住んでいたところから逃げるように去って、どうにか弔いを済ませて。…ずっと不思議だった。何も悪いことをしていないのに、何で隠れなきゃいけないのかって。俺を守るためだって言われても納得なんて出来なかった。そう…、狙う奴らが悪いのにって」
その怒りに、深い悲しみに、迷夜は手を伸ばした。彼の袖を掴む。
「俺は殺されたりしないし、俺の好きな人たちもそんな目には遭わせない。理不尽な目に遭うんだったら、そうなる前に全力で喚く。みっともなくても良いし、馬鹿にしたけりゃすれば良い。全力で噛み付いてやる。殺そうとしたことを後悔させてやる」
彼は獰猛な目で王族を見渡した。居並ぶ相手は見事に固まっている。
迷夜は一度手を放し、今度は彼の手を求めた。大きな掌。熱を感じる指先。彼に、寄り添いたいと心の底から願う。
「…っ。………。…そんな訳です」
稜星は多分反射的に力を籠めた後、力を抜いた。
「厄介な後悔をしたくなかったら、俺のことも周りのことも殺しに来ないでください。俺は王位は要らないので。言葉通りです。余計な詮索とか止めてください。迷惑なので。…以上」
一方的に言い募ると、頭を下げた。王后のは脅しだったが、これは脅しなのか頼みごとなのか判断に迷うところだ。
「じゃ、言いたいこと言ったし、戻るか」
稜星の家族が受けた被害を思うなら、このくらいでも生温いかも知れないが。
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