第33話

 稜星は耳が良い。梢花の昔話に孝心が撃沈し、何とか復活している様子、を聞くともなしに聞いていた。

 稜星にとって迷夜は口説きたい相手だが、孝心には好敵手と言うことになるだろうか。どっちにしても大変だな、と笑う。

 その相手は稜星が立て直した書棚に、本を入れていき、時折真剣に脱線して本を読み始めたりしている。こうしていると、ごく普通の愛らしい少女なのだが。

が、彼女はそれだけの存在では無い。稜星を巻き込んで、稜星に巻き込まれることを許容したとんでもない女性だ。計り知れない。

「迷夜」

 読書をし出したことを注意すると、はっとして本を閉じる。その所作は微笑ましかった。本の題名は『王侯貴族に流行りの意匠・図案全集』。…矢厳から迷夜が宰相の娘をやりこめた時の話は聞いていたが、こんなところでまで。勉強熱心ではあるが。

 …王侯貴族、ね。

 彼女は、自分の複雑で面倒な出自を、どう思うのだろう。…それを彼女に明かしたその上で、自分は彼女を望んでも良いのだろうか。

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