第32話

「……梢花は、迷夜殿のことが、とても好きなんだな」

「はい。大好きです」

 遊道が遣いを出しに行き、稜星と迷夜が騒ぎのあった書庫内を軽く片付けている中、孝心は尋ねてみた。梢花は全力で即答してきた。

「十歳くらいの時でしたか。私はその頃から身長が高かったのですが、それを男の子たちにからかわれて。ある時なんて、四、五人が取り囲むようにして囃し立てられました」

『転んだんだから、休んでなさい』と梢花の主は言った。『じゃ、お前。傍で話し相手になって置け。俺は自分が散らかしたところを片付ける』と孝心の従兄は気を遣ってくれた。『私も手伝う』という流れになり、今、二人は手を動かしている。似たもの同士な気がする。

「そうしたら。通りかかった小さな女の子が、男の子たちに怯むことなく抗議してくれたんです。とても格好良かった。…後で、その子が両親のお仕えしているお屋敷の、お嬢様の一人だと知りました。それから、ずっと。迷夜様は気紛れですけど、私の中では可愛くて格好良い、が更新され続けているんです。未だに、我が主以上に格好良い方を、私は知りません」

 振った話題を、少し後悔した孝心である。ここまで褒めちぎられる相手、の話題など。

「私、迷夜様には常々『自分より背の高い人と結婚したい』、と言ってありますけど、本当はもう一つ条件がありまして」

「『もう一つの条件』?」

 食い気味に尋ねてしまう。梢花より背が高い、は該当しているが、更なる条件とは。

「内緒ですよ? …『迷夜様より格好良い人』です」

 ずばり、言ってのけた梢花は花のように美しかった。…そんな顔されたら諦めがつかない。

「……頑張る」

「? どうかされました?」

「いや、こっちの話」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る