第31話
「……。梢花」
「はい」
結局はいつも通り、自分を通すことにした。
「私、稜星さんのところのお家騒動に巻き込まれようと思うんだけど」
「はぁっ?」
仲良く驚きの声を揃えたのは、遊道、孝心親子で、梢花は目をぱちくりさせていた。
「そう来るか」
稜星一人が目を細め、迷夜を見つめる。これも、値踏みの目だろうか。
考えてみたら、遊道や孝心や他の誰かが迷夜をどう見るかよりも、稜星がどう見るかの方が余程、怖い。他は黙殺出来る自信があるが、この人からは逃げきれないと。そう知っている自分がいる。迷夜の思考を面白がり、それこそを認める発言をした、訳の分からないことを言ってくる人なのだから。
「だから、梢花はどうする?」
「え」
「梢花まで巻き込まれる必要は無いわ。今から、後宮の部屋の戻るも良し。なんなら滄珠の地に戻るのも」
「迷夜様」
途中で、遮られた。梢花は今座っているので、迷夜より視線が低い。だが、覗き込むように見上げてくるその顔は、いつもみたいに笑っていた。
「ご一緒します」
「……もう少しくらい躊躇っても良いのよ? 梢花に得のある話じゃないかも知れないし。孝心さんのところに『稜星さんが危ない』って感じの遣いがあったんでしょう? 危険があるかもしれないし」
「でも、迷夜様は巻き込まれに行くのですよね?」
「うん」
ここで誤魔化しても通用しないのは分かっているので、素直に頷いた。と言うか、誤魔化すくらいなら、最初から巻き込まれる予定を口にしてはならないだろう。
「迷夜様、これは私の持論なのですが」
神妙な顔で、梢花が告げる。
「迷夜様は、私くらい抜けている者が傍に居た方が良いのです」
「……ん?」
「迷夜様は大概のことは出来ますけど、それだけに一人で突き進んでしまいがちです」
「そうかなぁ…? 出来ないこともたくさんあるし、我ながら気紛れだから、進んでるんだか戻ってるんだか迷ってるんだか、把握出来て無いことも多いし」
迷夜は真剣にぼやいたが、梢花はそこには触れず断言した。
「私が居れば、迷夜様は振り返ってくださいます。私が転んでないか、転んでいたら引き返して来て『大丈夫?』と声を掛けてくれるでしょう? ですので、是非お連れください。一人で突き進まないようにするには、私は必要な筈です」
梢花による謎の売り込みに、不覚にも迷夜は笑ってしまった。勝負あり。梢花の勝ちだ。しょんぼりしていたと思ったら、これだ。
抜けているけど、芯が強く、適応力がある。己の内をよく理解している。梢花のこういったところを、迷夜は好きだと思う。
「分かったわ。よろしくお願いします」
わずかに頭を下げると、梢花も返してくれた。
「話はついたな」
稜星が頃合いを見て声を掛けてきた。
「ええ」
「伯父上。そんな訳で、迷夜たちに俺の事情を話すことが決まったから、そのつもりで」
面前でやり取りをしていたが、この場合、事後報告と言うのだろうか。遊道が物凄く呆れた顔をしている。
「…話には聞いていたが、何とも不思議な妃と侍女だな」
そこに梢花も含むのか。どうしよう。今後、梢花の結婚なんかに障ったら。
「どうせだ。彩維と矢厳も呼ぶ。…二度と宰相たちに馬鹿なことさせないようにしないと」
それは決意の言葉だった。
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