第21話

 怒りをねじ伏せ、笑う。楽しい訳でも嬉しい訳でも無い、威嚇のための笑顔だ。

「……私は、貴女がたと、特に関わり合いになりたくありません。貴女がたが私を目障りだと思うのなら、無視してくだされば済むことです。ご理解いただけますでしょうか?」

 女性四人は、完全に呑まれてくれていた。引き攣った顔でこくこくと頷き、早足で退散していく。

「…地面、泥濘んでるけど、大丈夫かしら」

「あ。一人転んだな。あーあ」

 稜星が呆れたように腕組みをする。そちらを見上げると、仄かに笑われた。

「っ」

「で、矢厳に話を聞いたのは孝心もなんだが、孝心が迷夜に礼を言いたいって言ってたな」

「……? 礼?」

「彩維は孝心の妹なんだよ」

「……………」

 迷夜はしばらく真剣に記憶を辿った。孝心と、彩維。

「……。…似てないわね?」

 どちらも整った顔立ちだけど。印象が重ならない。浮かべる表情の違いもあるだろうけど。兄はよく笑って、妹はよく泣く。

「昔から、似てないって言われ続けてるな。あの二人は」

 はた、と迷夜は気付いた。

「稜星さんと、孝心さんたちって」

 彼らの関係性は何だろう。きちんと聞いていない気がする。無理に聞き出す気は無いが、ふと思ったのだ。稜星と孝心は似ていないが、稜星と彩維は似ている気がしなくもない。

 疑問は、言い終えることが出来なかった。

「大変だ!」

 そう、声が上がった。後宮の門の方角からだ。

「孝心?」

 確かに孝心の声だった。稜星が早足でそちらを目指す。迷夜も遅れながらも後に続いた。

「稜星! 何処だ!」

 他にも後宮に来ている官はいるのに、稜星だけを呼ぶ。そういえば梢花が言っていた。孝心は梢花と話している最中でも、耳を澄ましているようにすることがある、と。それはもしかしたら、稜星の現在地を無意識に探ろうとしているのではないのか。実際に、感知できるかできないか、は関係無い。そうすることが彼が己に課していることなのだろう。

「稜星! 稜星!」

「こっちだ! 孝心!」

 建物の陰から、孝心が現れる。声を張り上げつつ、走って来たのなら疲れて当然だ。稜星の姿を見るなり、しゃがみこんだ。

「孝心? 大丈夫か?」

「お水、持って来ようか?」

「ああ、頼む」

「いや、……いら、ない。大、丈夫」

 迷夜の提案に稜星は頷き、孝心は息を切らしながらも断りを入れてくる。

「けど、お前」

「本、当…に。……。うん、もう大丈夫」

 息を整えて、言い直す。

 この間に人が集まって来ていた。これだけ騒げば注目されて当然か。人払いをしたら…余計、気にされるか。ここは後宮で、普段はいない筈の人間が来ていて、その人たちが話すための人払い。……無理がある。それだったら、後宮の外で話しなよ、と迷夜でも思う。それに、迷夜が言ったくらいで、人払い出来るとは思えない。

「稜星。……王が、倒れた」

「……は?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る