第10話


 後宮の門まで戻ると、梢花と孝心が親しそうに話をしていた。迷夜が仕組んだ部分はあるが、傍から見ても美男美女で絵になる組み合わせである。孝心に照れがある様子なのが、初々しくて何だか素敵だ。どちらも笑顔だ。

「あ、来たな」

「迷夜様」

 二人の邪魔はしたくなかったが、二人ともこちらに気が付いたので、もう遅い。ゆっくりと梢花の傍らに寄る。

「簡単にだけど、書庫を見てきたわ。面白い本がたくさんありそうよ。…ちょくちょく抜け出すことにするから、気が向いたら見逃がしてね、孝心さん」

「俺の権限でどうにか出来る時は構わないけど、でも普通、妃って誰かに命じて本でも何でも運ばせるもんだろ?」

 己の権限、をそんな風に差し出して約束してしまっては良くない、と迷夜は思う。有り難い申し出だし、ほぼ間違いなく迷夜はその言葉に甘えるだろうけど。…罪悪感が無い訳では無いので、一応は釘を刺しつつ、その後、稜星の言葉を伝言する。

「お世話になっておいて言うのもあれなんだけど。私が後宮の外で何かやらかした時に、孝心さんまで責任取らされないようにね。それからさっき、書庫で稜星さんに会って、孝心さんに『ちゃんと仕事しろよ』って伝言預かってて」

「う」

 孝心が固まった。

「でも、私は自分の読みたい本とかは、自分で見繕いたいのよね。…だから、孝心さんの気が向いた時か、門番が交替する時とかの隙を見て行動しようと思うわ。そんな感じでよろしくね」

「迷夜様。かなり無茶苦茶言ってますよ。……申し訳ありません、孝心様」

 迷夜に変わって、梢花が頭を下げる。あ。しまった。狙ったわけでは無いのに。

「い、や。大丈夫。どうにか出来る」

 梢花がこんな態度に出れば、逆に孝心は請け負ってしまう。

「…ごめん、稜星さん。本当にこれに関しては企んでないよ、私」

 二人には聞こえないように、そっと稜星に謝る。稜星は明言はしていなかったが、孝心を心配していたのだろう。…出来る限り気を付けよう。私の所為で他の誰かが責められないように。


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