第1話
瓏の国は麗しく、豊かな国だ。英邁な王と、彼を支える臣下が正しく政を行ない、国を治めているのだ。
この国の春は、色が滲み出るように始まる。南方から北方にやわらかい風が吹き、その風は優しく地を、芽を、蕾を起こして往く。
その風と共に、南から北へと向かう馬車があった。
「……本っ当に、やってられないわ」
揺れる馬車の中、もう何度目かになる言葉を秦迷夜は小さく呟いた。溜め息に紛れたそれは、恐らく隣に座る石梢花の耳には届かなかっただろう。
故郷である滄珠の地を去り、途中の街で数度、宿を取りつつ進んできた。そんな馬車での旅も終わりに近付いて来ている。もう直に関所があり、そこを越えれば王都・芙蓉芯、らしい。何せ、迷夜は王都に行くのは今回が初だ。現在十六歳。特に王都に憧れなど無かったが、それでも。
初めて王都に行く用事が、こんなのなんてね。
仕事、だと思い切ることにしたが、やはり心のどこかで引っ掛かっているようだ。
今度は溜め息だけを吐く。いつの間にか梢花はこちらに寄り掛かって来ていた。眠っているようだ。寄り掛かられるのは別に構わない。が、すらりと背の高い梢花は、小柄な迷夜を支えにしても却って体に負担が掛かりそうな気がする。ちゃんと休めていると良いのだが。
梢花から目線を外して、そのまま目を伏せる。
そして、年明け早々に自分に向かって言い放たれた父親命令を思い出す。
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