第5話

〈―― 1〉

「わぁ…綺麗な夕焼け」

戻ってきた。ここはビルの屋上らしい。

「……」

少年は応えなかった。

「どうしたの?」

「あ、ごめん。少し考え事をしてただけだよ。ごめん。」

「ん。」

雲一つ無い空が、茜色に染まっている。

不意に、にゃあ。と、猫の声が聞こえた。

「あ、猫さん。」

「にゃぁ…そこに箱があるにゃ。」

「喋った!?」

え、猫って普通喋らないよね?

「にゃぁ。ここでは普通にゃ。」

「…難しく考えなくても良いよ。」

「そ、そう。」

「それよりも箱、開けにゃいの?君の記憶の欠片が入ってるのに。」

「私の…?」

「早く開けるにゃ!時間が――」

「帰れ!」

猫の言葉を遮って、少年が大声を上げた。少女は後退りした。

「っ……ごめん…。」

「ねぇ、さっきの話って」

「あの猫の戯言だよ。君は気にしなくて良いよ。それよりも今は…」

少年はチラリと箱の方を見る。

「…そうだね。」


少女が箱を開けている間、少年は猫と話していた。少女には、聞かれないように。

「まだ言わないで。なんて。」

「どうして?時間が来てしまえば彼女は」

「わかってる。」

「わかってるなら、どうして?」

「…」

「……そっか。」

「開いた!私の…記憶の欠片…!」

少年と猫の会話は終わり、少年は少女の方に寄った。猫はどこかに行ってしまった。


「どう?思い出した?」

「うん。でも、まだ……。」

「そっか。じゃあ、また記憶の欠片を探しに行こう。」

「うん。」


・・・


私は、―――という病気で入院することになった。そこで私は、彼に、――君に出会った。同じ病室で、同じ年齢としだった私達はすぐに仲良くなった。私の不安も、彼がいることで吹っ飛んでいった。

「――君!今日は何する?」

「そうだね……あ、聞きたいことがあるんだけどね、」

「?…何?」

「夕方にさ、いつもお庭に行ってるけど、何をしてるの?」

「ん〜っとね、ふふっ。一緒に見に行こうよ。」

「いいの?」

「もちろん!」

一緒に庭園に行ってから噴水が作る虹を見たり、ワンちゃんも加えて一緒に遊んだり、一緒に寝たり……入院したけど、私は幸せだったんだ。

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