第一章 憧れの宰相様に求婚されました②
「さ、
背中に感じる
「
金切り声とはまた
「
至近
ぎゅっと
(感情が……感情が追いつかない──!)
悲しみの色に染まった
「一応、取り次いでもらうよう
ルドヴィクが言うと、叔父は後方に固まっている使用人たちの中にいる執事に目を留めた。
「なぜ、私に報告しないのだ!」
「伝えようとしたのですが、
執事が
「くっ……そ、それで、この
通常ならねちねちと説教が始まるところだったが、少しは理性が残っていたらしい叔父は、こちらに向き直ってぺこりと頭を下げた。
「それはない」
ルドヴィクが
ところで、ずっと肩を抱かれたままなのですけど、これはいつになったら離してもらえるのでしょうか。
(また白昼夢でも見ているのかしら?)
本当の私は、階段から落ちて意識をなくしているのかもしれない。
「そう……ですか」
叔父は
「時に、ステラを除名処分すると、外まで聞こえてきたのだが本当か?」
「ほ、本当です。グエナエル王太子殿下に失礼な態度をとったのだとか。私どもは何も知りませんでした。きちんと
伯爵家から私を切り離し、王家からなんらかの責任を問われたとしても、世間から批判を浴びたとしても、関係ないと言い
「そうか、わかった。では今日中に除名証明書にサインして王宮に届けさせよ。本来ならば部下の方で預かり処理するが、今回は特別に宰相権限にて、最優先
ルドヴィクのその発言を、私は信じられない気持ちで聞いた。
(つまり、殿下も私に非があるとお考えに……?)
彼の顔を
「か、かしこまりました。よろしくお願いいたします」
「あの、それで、宰相閣下はどのようなご用事でいらしたのですか?」
「本日、王宮に来るようにとステラと約束したはずが、いつまで
「へ?」
思わず
「その様子では、すっかり忘れられていたようだな」
ルドヴィクが
「まあ! ステラ、あなたはグエナエル王太子殿下だけでなく、宰相閣下にもとんだ無礼を──」
カッと目を見開いた叔母の言葉を、ルドヴィクが手を上げて制した。
「突然、婚約を破棄されて、ステラも混乱していたのだろう。無理もない」
「申し訳ありません。昨日はその、いろいろと考えがまとまらなくて、何を話したのか覚えていなくて……」
正直に答えると、ルドヴィクは軽く首を横に振った。
「王宮にある君が使っていた部屋に本など荷物が残っているだろう。それを取りに来なさいと話したのだ」
そんなこと言われたっけ?
ルドヴィクとの約束をすっぽかすなど、なんと
こうなると、彼から結婚してほしいと言われたことも、やはり何かの聞き間違いと考えざるを得ない。
(それに、よ。私はこれから
家格は関係ないとかグエナエルはドヤっていたが、ルドヴィクはそこまで
そもそもルドヴィクは
(だんだん、昨日のことが
自分はどこで
泣きそうになって
「このまま話を合わせなさい」
それは、私にしか聞こえない程度に
「あ……あ、はい。そう、でした」
へたくそなマリオネットのように、かくかくと
「除名ということは、ステラの私物はこのタウンハウスに不要だろう。除名証明書と共にすべて王宮へ届けてくれ。必要ならこちらで馬車を用意させる」
「しょ、承知いたしました」
叔父がハッとしたように
「では行こうか、ステラ」
「は、はい」
肩を抱かれたまま回れ右をして、馬車回しに待たせている王家の
ちらりと肩
ルドヴィクのファンの
叔母の
それにしても
「ルドヴィク殿下。あの、一人で歩けますので」
やんわりと手を
「昨日、君が上の空だったから改めて話をした方がいいと思って来たのだが、少々予定を
私の言葉を無視して、ルドヴィクの
聞こえなかったのかな?
「わ、私のせいでご
「ちっとも迷惑だと思っていない。それより君は昨日の話を本当に覚えていないのか?」
「私と結婚して、なんて言ったり……?」
「そこは覚えているのだな」
おそるおそる聞いたのに、あっさりと認められて心臓が
「夢ではなかったのですね……」
「私と結婚するメリットなんてありませんよ」
「君の望みを
馬車に乗り込み、向かい合わせに
そこで私は
「どうして私の方を見てくれないのだね?」
「申し訳ありません。本日はお化粧を忘れてしまって、人前に
こんなことなら叔母たちを待たせてでも、せめて
「
なんという殺し文句。
さらりとそんなことを言って、
私は目を閉じて
「ありがとうございます。でも、その、
「では、こうしよう」
ルドヴィクは席を立って、私の
少し
「こうすれば顔を見ずに話ができる。だからそっぽを向かないでほしい」
(たしかに
どうしてこんなお手本になる人がそばにいたのに、グエナエルにはまったく
彼のことを思い出すと、ため息しか出てこない。
「ステラ。それで、昨日の話だが」
「はい」
私は下を向いたまま、居住まいを正した。
「一か月後に開かれる
一か月後の舞踏会。
本来であれば、グエナエルと私の結婚の前祝いのようなパーティーをする予定だった。ドレスも一式用意して準備は
「申し訳ありません。まったく
手の
「やはり、か。何を聞いても頷くばかりだったから、もう一度王宮へ来て話をしたいと言ったのに、姿が見えなかったので直接
ルドヴィクが小さくため息をついた。
「ボードリエ伯爵が君の
「父のことをご存じなのですか?」
私は
「ああ。年も近かったし、若き領主として
父とルドヴィクに
「……ありがとうございます。優しい人だったのは覚えていますが、そんな風におっしゃってくださる方がいて
両親が
残すのは当たり前で、もったいないと私が
自由だった生活は
「ステラが
「わ、私は、そんなに褒められるような人間ではありません」
十歳の時に出会ったあの日から、ずっと
グエナエルは気まぐれで勉強
十年も彼の
なぜならルドヴィクも年を重ねるにつれて
常に不機嫌そうな落ち着きのないグエナエルに会うたびに、その差は歴然と広がっていった。
(
なんて、そんなこと口が
「ですが! 結婚というのは、話が
「……結婚してくれと先に言ったのは君だろう?」
言いましたとも、やけくそ気味に。けれども、冗談だろうと笑い飛ばされると思ったのに。
だから、ルドヴィクが
王弟親衛隊の隊員は
そんな指輪のない私は言葉にするしかないと思って、勢い任せに口から
「言いましたけど……ルドヴィク殿下も私に原因があって婚約
「
「それでは、どうして除名処分を
「ボードリエ伯爵があのような
あの少しの時間でそこまでの判断ができるなんて、相変わらず頭の回転が速すぎます。
「お、お気持ちは嬉しいのですが、それでも私のような
そう言いながらも「妻」という単語に、
「ステラ。君が望むなら、どこか良家の縁談を
ルドヴィクがそう言った時、馬車が小石に乗り上げて車体が
「君を幸せにできるのは、私だけだ──」
胸の中に閉じ込められて、
これ以上は、本当に
捨てられ令嬢が憧れの宰相様に勢いで結婚してくださいとお願いしたら逆に求婚されました 宮永レン/角川ビーンズ文庫 @beans
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