序盤でボコボコにされる小物キャラは、実は何者かになりたかったのかもしれない!?~序盤でかませ犬にされるキャラクターの真実がこちら!!!!~【短編】

琴珠

短編

 俺は幼い頃から、一流の冒険者を目指して修行をしてきた。


 来る日も来る日も修行の日々、目標に向かってずっと頑張ってきた。

 そんな俺も、今日で30歳になる。


 修行をしてきたということもあり、筋肉がついた。

 体も大きくなったのだが、それだけだ。


 なんのスキルも獲得できず、なんの魔法も獲得できず、正直言って俺に冒険者の才能はなかった。


 けど、俺はどうしても一流の冒険者になりたかった。

 今の俺は冒険者だけじゃ生活していけない。


 だから、別な仕事と兼業の冒険者だ。

 でも、やっぱり冒険者一本で生活をしていきたい。


 そんな夢を、この年になってからも抱き続けていた。

 勿論、仕事で疲れた日々でも努力は欠かさなかった。


 実際に成果として現れないんじゃ、努力じゃないのかもしれない。

 けど、俺は俺なりに今も頑張っている。


 時には泣いた時もあった。

 自分よりはるか年下で、実力のある冒険者を見て、精神的ショックで吐いたこともあった。


 それでも、誰かに攻撃的にならずに頑張って来た。

 そう、この日までは。


「なんですか!? この魔力は!?」

「えっと、これって凄いんですか?」

「凄いですよ!」


 冒険者ギルド内で、見た所15歳くらいの少年が、受付の女性に驚かれている。

 どうやら、想定以上の魔力を持った少年らしい。


 悔しかったが、筋力なら負けていない。

 実際はどうか分からないが、そう思いたかった。


 俺は気にせずに、掲示板に貼ってある依頼書を持って、受付に行く。


「凄い筋肉だな!」

「まぁな……」


 先程の少年に、受付で声を掛けられた。


「俺なんて、全然弱くて駄目ですよ」

「そうなのか?」


 確かに見た目は細い。


「いやいや、少年の方が強いだろうよ」


 彼の後ろにいた、20歳くらいの青年がそう言った。


「俺なんて全然弱いって! 細いし!」


 なんだか腹が立った。

 勿論、悪意はないのだろう。


 だが、どこか馬鹿にされている感じがした。


「ガハハハ! お前の方が強いってか? 俺の方が強いぜ! なんせ俺は、少なくとも20年以上は冒険者としての修行を続けてるんだからな!」


 やめておけば良かった。

 けど、どうしても我慢ができなかった。


 本当は悔しくて泣きそうだった。

 けど、それを笑って誤魔化して、口を開いた。



 それから俺は周りに煽られて、少年に怒鳴り続けた。

 その結果、少年と俺が戦うことになり、俺は筋力でも負けたのだ。


 相手は涼しい顔をして俺の拳を受け止め、片手で俺を一発ぶん殴ると俺は吹き飛び気を失った。

 完全に俺の負けだった。



 あの日をさかいに、俺は完全に冒険者を引退した。

 ツラかったのだ。


 そして、あれから数年が経過した。

 俺が大口を叩いて少年に負けたということが職場にも伝わったようだったので、今は前住んでいた町から、そこそこ離れた場所で仕事をしている。


「専業冒険者が羨ましいぜ。ダンジョンを冒険して、モンスターを倒して、それで生活できるなんてよ」


 仕事の休憩時間などに、仕事仲間についそう言った愚痴を言ってしまうこともある。

 勿論あまり良いことではない。


 だが、どこかに吐き出さなければツラかったのだ。


「だったらお前もやってみればいいじゃん」


 仕事仲間の彼は、笑いながらそう言った。

 今の職場の皆は、俺が冒険者を目指していたことを知らない。


 だから、悪気はないのだろう。


「俺は無理だ」

「やってみればいいじゃん。それで生活するのが羨ましければ、やってみればいいじゃん」


 話を終わらせたかったが、彼は続ける。


「俺はやったことないが、冒険者ってきっと大変だと思うぜ? よっぽど強くなければ、休日なんて、ほとんどなしだ。常に何かを考えてなきゃいけないからな」


 それは知っている。

 だが、それでもコミュニケーション能力が低い俺にとっては、冒険者の方が精神的な負担は少ない。


 実際に兼業していたから分かる。

 弱いので大金は稼げないが、冒険者の仕事の方が楽しかった。


 確かに冒険者もコミュニケーション能力は必要だが、それでも他の仕事よりはそれを必要としない。

 ほとんど喋らない冒険者もいるくらいだ。


 結局は才能なのだ。


「確かに大変だろうが、精神的にキツイことやるよりは、楽しいと思うがな」

「だったら、やればいいじゃん。羨ましいんだったらやればいいじゃん。それで生活したいなら、やればいいじゃん。自分もやってみればいいじゃん」


 俺はこの日、職場をクビになった。

 彼を殴ってしまったからだ。


 なんて馬鹿なことをしたのだろう。


























































 あれから数年が経過した。

 後数年経てば、冒険者のことを忘れられるかと思ったが、実際そう上手くはいかなかった。


 ただ、一応今の俺は何かを食べて、寝て生きている。

 昔と変わらない日々だが、それだけでも十分じゅうぶんに幸せなのかもしれない。


 しかし、それでも……冒険者になりたいという想いは、死ぬまで抱き続けるのだろう。

 それに耐えることこそが、俺にとっての人生の試練の1つなのかもしれない。


【あとがき】

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