はい、アウトー
菟月 衒輝
はい、アウトー
【現在】
まさか、親友と俺が命の取り合いをするとは思ってはいなかった。
いま、俺の心拍数は急上昇している――とともに、どこか冷静な自分もいた。
この現実を回避する方法はなかったのだろうか。
竹馬の友とも言える二人が、互いに、殺し、殺されるような――目をつむりたくなるようなこの惨劇を回避する方法は……。
否。いま考えたところでもう遅いのだ。
肚の心算はとっくに決まっていたのだ――!
あのゲームを、あの、幼稚でくだらないゲームを終わらせるにはこれしかない。もう殺すしかないのだ!
紅に染まる拳。上がる息。錆鉄の臭い――。
光を剥く刃。そして、俺に向かう叫ぶ親友の声――――。
――やめてくれ! 殺さないでくれ!!!!」
そして、これが、俺の聞いた、親友の最後の言葉となった――。
長く永く続いた俺と親友のゲームは、死を以て幕を閉じた。
【告解:回想】
親友――、便宜的に、Kとしておこう。Kがこうなってしまったのは、思えば、中学のころのあの昼休みのことが発端だった。
俺とKは小学校以来の友達で、なにをするにも大体いっしょだった。
放課後にサッカーしたり、家でオンラインでゲームしたり。お泊り会もしたことがある。
そして、親友であると同時に悪友でもあった。
校舎の裏の壁にペンキでゴリラみたいな体育教師の“似顔絵”を描いてみたり、ボケた婆さんがやってる駄菓子屋で金をちょろまかしてみたり。
その多くはバレなかった。なぜなら、こういうイタズラのときは、俺がいつも立案して、その計画はいつも完璧なものだったからだ。
そして、Kはいつも俺を信じてくれて、どんな奇想天外な計画だったとしても、必ず俺の言う通りに、忠実に動いてくれた。
それでも「多くは」なのは、やはりいくつかはバレてしまったものがあった。
だが、それは俺の計画が悪かったのではない。Kのやつがどんくさかったせいだった。
その証拠に、俺はバレても怒られたことはなかった。いつもKだけが捕まって、俺は逃げ果せることができていたからだ。
――そう、あいつはいわゆる「ドジっ子」キャラだった。どこか鈍くて、どこか抜けている。
そんなある日、俺の中学では「黄色って言ったらダメ」というひっかけゲームが流行っていた。
どういうゲームかというと、出題者が言った言葉を回答者がおうむ返しするゲームだ。ただし、出題者が黄色って言った場合には、繰り返してはダメで、黄色って言った時点で回答者の負けとなる。
このゲームには引っ掛け要素があって、「黄色」って言って、「黄色」って返すバカはいない。でも、「紫色」っていうと、「紫色」と返してしまう。しかし、「むらさきいろ」だからアウトというひっかけだ。
まあ、子供っぽい遊びなんだが、俺はそれをKに出してやった。
「なぁ、いまからゲームしようぜ。俺がなにか言葉を言うから、お前は俺の言ったことを繰り返すんだ。でも、俺が『黄色』って言ったら繰り返しちゃダメだ。そしたらお前の負け」
「うん。わかった。罰ゲームはあるの?」
「そうだな。じゃあ、負けたやつは、あしたの給食のプリンを勝ったやつに譲る」
「うん。わかった」
馬鹿なやつだ……。いつもこうやって俺に引っ掛けられているのに。
「よし。じゃあ、始めるぞ。黄緑色」
「黄緑色」
「バナナ」
「バナナ」
「黄色」
「……」
「白色」
「白色」
俺はここで仕掛けることにした。
「紫色」
「……」
ひっかからない!? 俺は少したまげたが、実はこのゲームにはさらに奥の手というものが存在する。
「蜃気楼」
「蜃気楼」
「あ! はいアウトー!」
ここで、普通のやつなら「え? 言ってないよ?」と言ってアウトである。このひっかけを突破するには、「あ! はいアウトー!」と繰り返さなくてはならない。
俺はもう内心ほくそ笑んでいた。ひょっとすると、表情にも表れてしまっていたかもしれない。
しかし、Kは少し笑みを浮かべながら、こう続けたのだった。
「あ。はい、アウトー!」
……【現在】につづく。
はい、アウトー 菟月 衒輝 @Togetsu_Genki
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