エピローグ
「速い、速ーい!」
「おーい、お兄!」
目の前では、美春ちゃんと夏樹が楽しそうな声を上げながら、メリーゴーラウンドに乗っていた。
「二人共楽しそうね」
その様子を見て、僕の隣に居る詩織が微笑みながら呟いた。
夏休み最終日の今日、僕達四人は詩織の提案で遊園地に来ていた。
どうやら数日前に美春ちゃんがテレビの番組でで遊園地特集が放送されていた時に食い入る様に見ていたのを詩織が見つけて、連れて行ってあげよう、と思った事がきっかけらしい。
「お姉ちゃん、優くーん!」
そんな事を思い出していると、美春ちゃんと夏樹が二人で仲良く手を繋ぎながら戻って来た。
「二人ともメリーがラウンドはどうだった?」
「楽しかったよ!」
「うん、速かった!」
僕の言葉に美春ちゃんと夏樹は元気に言葉を返し、詩織は微笑みながら僕達のやり取りを眺めていた。
僕はそんな詩織を見て、子どもが出来たらこんな感じなのかな、とつい想像して自然と頬が緩んだ。
「優君、どうしたの?」
そんな僕を見て、詩織は不思議そうに首を傾げた。
「な、なんでも無いよ。それで、二人は次に乗りたい物とかある?」
詩織に指摘された事が恥ずかしくて、僕は慌てて話題を逸らした。
「お兄、アトラクションも良いけど、確か、そろそろパレードの時間だった気がするよ?」
「猫のニャーさんに会えるの!? お姉ちゃん、私、行きたい!」
そんな興奮した様子の美春ちゃんのお願いに詩織は微笑むと、「良いわよ、迷子になってしまうといけないから、手を繋いで行きましょう?」と、言って美春ちゃんに手を差し伸べたのだった。
パレードが行われるという場所まで来ると、そこには沢山の人がパレードを見ようと集まっていた。
なんとか空いているスペースを見つけると、僕は夏樹に言われて用意していたレジャーシートを広げて座る場所を確保した。
詩織は、「ありがとう、優君」と、言うと僕の隣に腰を下ろした。
すると、そのタイミングでパレードの始まりを知らせる曲が聞こえてきて、キャラクター達が歩いて来るのが見えた。
「あっ、ニャーさんだ! おーい!」
美春ちゃんは興奮した様子でキャラクター達に向かって手を振っている。
その横では、詩織が顔を綻ばせながらも無言でスマートフォンを構えて、美春ちゃんを連写しているのだった。
「ねぇ、優君、あれに乗ってみたい!」
パレードが終わると美春ちゃんが一つのアトラクションを指差した。
それは乗り物に乗って進み、道中でお化けが驚かせてくる、というアトラクションだった。
このアトラクションは激しく動く事が無いので、美春ちゃんの様な小さな子でも乗る事が出来る。
僕は美春ちゃんに頷くと、「二人はどう?」と、詩織と夏樹に尋ねた。
夏樹は、「良いよ!」と、頷き、詩織は、「わ、私も良いわよ」と、小さな声で呟いた。
「詩織、大丈夫? 体調でも悪い?」
僕はそんな詩織の様子が気になり、声を掛けた。
すると、詩織は両手を身体の前で横に振って、「だ、大丈夫よ。さぁ、行きましょう」と、行ってアトラクションに向かって歩き出した。
その様子を見て、僕の気のせいだったか、と思うと、詩織を追い掛ける為に足を踏み出したのだった。
アトラクションの待機列でしばらく待つと、スタッフの方が乗り物に案内してくれた。
その乗り物は一列に四人乗る事が出来るので、奥から夏樹、美春ちゃん、詩織、僕の順番で横一列に並んで座った。
スタッフの方が全員が乗った事を確認し終えると、「それでは行ってらっしゃい!」と、言って乗り物が進み出した。
道は薄暗く、怪しく光っているライトが不気味だ。
最初は何が出てくるのだろう、と思っていると、突然乗り物が止まり、それと同時に、「何故来てしまったんだ!」という、声と共に僕達の真上からお化けが顔を出した。
上から来るとは思わなかった、と僕が思っていると、突然、「キャー!」という声と共に腕に柔らかな感触を感じた。
僕が慌てて横を見ると詩織が僕に抱き着いていた。
「し、詩織、大丈夫?」
柔らかな感触に僕は慌てながらも声を掛けると、詩織は、「ご、ごめんなさい」と、手を離そうとした。
その瞬間、今度は横から大きな音と共にお化けが顔を出した。
詩織は、「キャー!」と、言って先程より強く僕の腕を抱き締めた。
「し、栞里!?」
「二人とも仲良しー!」
「お兄達のイチャイチャがお化けより目立ってる……」
僕と詩織が二人で慌てていると、嬉しそうな声で美春ちゃんが、呆れた声で夏樹がそれぞれ言うのだった。
その後は休憩を挟みながら他のアトラクションにも乗り、気が付けば辺りが暗くなり始めていた。
夜には花火が打ち上がるらしいので、僕達は中央の広場に向かった。
「あ、ミーちゃんだ」
広場には色々なキャラクターが居て、美春ちゃんがその内の一体の元へ行こうとしたので、僕も一緒に向かおうとした。
「お兄、私もミーちゃんの所に行きたいから、中川さんとここに居て良いよ」
その言葉を聞いて夏樹が僕達に気を使ってくれているのを感じた僕は、「分かった。見える所にはいるから」と、言って夏樹の厚意に甘える事にした。
美春ちゃんの事を追い掛ける夏樹の背中を見ながら詩織が、「気を使われちゃったかしら」と、呟いた。
「本当、僕よりずっとしっかりしているよ」
「そんな事ないわよ。優君も頼もしいわ」
詩織はそう言いながら僕の手を優しく握った。
「それに、優君と出会ってから毎日が楽しいもの。本当に出会えて良かった」
そう言う詩織はとても可愛らしくて、愛おしく思った僕は、「僕もだよ」と、顔を近付けた。
その僕の行動を見て、察したのか、詩織は静かに目を閉じた。
そして、僕と詩織の唇は優しく触れ合った。
「……嬉しい」
口が離れると詩織は嬉しそうな顔をして呟く。
その瞬間に花火が打ち上がった。
「お姉ちゃん、優君、花火だよ!」
「美春ちゃん、今、良い雰囲気だから!」
僕はそれを見て幸せに満たされていると、元気に走る美春ちゃんとそれを追い掛ける夏樹の姿が視界に入った。
その様子を見ていると、詩織が口を開いた。
「優君、私、今、とても幸せ」
「うん、僕もだよ」
そうして、僕達は互いに顔を見合わせて微笑んだのだった。
了
☆☆☆
ここまで読んで頂きありがとうございます!
皆さんの応援やコメント、レビューのお陰で二人の物語を最後まで書く事が出来ました。
本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
少し期間は空いてしまうかもしれませんが、新作も準備していますので、次の作品を通してまた会える事を願っています。
ありがとうございました!
女の子を助けたら、クラスの女子に子育てのアドバイスをする事になった 宮田弘直 @JAKB
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます