名前の呼び方

僕と中川さんはその後、様々な種類の魚を見ながら進んで行った。

そうして半分程進んだ所でイルカショーの案内が書かれている看板が視界に入った。

スマートフォンの時刻を確認すると、ショーの時刻までもう少しだった。


「中川さん、イルカショーがもう少しで始まるみたいだから、良かったら観に行かない?」


「ええ、見てみたいわ。行きましょう!」


笑顔で頷く中川さんを見ると、僕と中川さんはイルカショーが行われる場所に向かった。


そこはまだチラホラと空席があって、僕と中川さんはその内の一つに座った。


すると、丁度腰を下ろしたタイミングで、イルカショーの始まりを告げるアナウンスが流れた。


「丁度始まるみたいね。間に合って良かったわ」


そういう中川さんの嬉しそうな表情を見て、僕自身も嬉しい気持ちになっていると、イルカ達が続々とやって来るのが見えた。


イルカ達が跳んだり、速く泳いだりする度に、中川さんは楽しそうに声を上げたり、拍手をしている姿を見て、僕は微笑ましくなり、イルカよりも中川さんの事をずっと見ていた。

中川さんの新しい一面を知る事が出来て僕は嬉しい気持ちになるのだった。


イルカショーが終わった後、さらに進んで全ての魚を見終えて、水族館を出ると、外が暗くなり始めていた。


「中川さん、次はご飯を食べに行こうか」


僕が声を掛けると、中川さんは一瞬驚いた後、嬉しそうな表情で頷いた。


僕は中川さんを連れて近くのビルの最上階に向かった。

そこには、中川さんの希望に答える為に、僕が悩みながらも予約したレストランの入り口があった。


僕は中川さんが気に入ってくれると良いな、と少し緊張しながら店の扉を開けて中に入った。


「すごくお洒落ね」


店に入ると、中川さんが嬉しそうに呟いてくれて、僕は取り敢えず安心する事が出来た。


すると、店員さんがやって来たので予約している事を伝えると、僕と中川さんを窓際の席に案内された。


「わぁ、綺麗!」


席に腰を下ろすと、中川さんは外の景色を見て、目を輝かせながら嬉しそうに声を上げた。

そのレストランは全面ガラス張りで、ここから周りの景色を一望する事が出来た。


僕は嬉しそうな表情の中川さんを見ながら、二人で一通り夜景を堪能すると、メニュー表にお勧めと書かれていたパスタを二人分注文した。


その後、僕と中川さんは再び夜景を見ながらパスタが来るのを待っていた。


やがて、パスタが運ばれて来ると、僕と中川さんは手を合わせ、「いただきます」と、言って食事を開始した。


パスタを一口食べると、そのあまりの美味しさに僕は目を見開いた。

美味しさを伝えようと視線を上げると、中川さんも美味しそうにパスタを食べていた。

僕の視線に気が付き、中川さんは顔を上げると、「とても美味しいわ。ありがとう、新島君」と、言って微笑んだ。


やがて、食事を終えると、中川さんは静かに口を開いた。


「今日は本当にありがとう。とても楽しかったわ、その、ゆ、優君」


中川さんが僕の名前を呼んでくれた事が嬉しくて、僕は思わず固まってしまった。


「そ、その、ゆ、優君が頑張ってくれたから、私も一歩踏み込もうと思って……」


顔を赤くしながら呟く中川さんを見て、僕は心が満たされていくのを感じた。

そして、中川さんが一歩踏み込んでくれたのだから、僕もそれに応えよう、と思った。


「その、とても嬉しいよ。し、詩織」


僕が呼ぶと中川さんは嬉しそうな表情をして、「ありがとう」と、言うと恥ずかしそうな表情になった。


「……その、嬉しいけど、少し恥ずかしいわね」


「……確かに」


中川さんの言葉に僕が頷きながら言葉を返すと、僕と中川さんは視線を合わせて笑いあった。


僕はとても幸せな時間だ、と心の底から思うのだった。



☆☆☆


いつもお読み頂いてありがとうございます!

次回、最終話となりますので、是非、最後までお付き合い頂ければと思います。

よろしくお願いします!

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