思い出の写真
僕と中川さんは駅から少し離れた所にある水族館に歩いて向かった。
チケットを購入して入り口から入ると、人が列になって並んでいるのが見えた。
よく見てみると、スタッフの方がカメラを構えて来場者と思われるカップルの写真を撮っていた。
水族館に来た記念に魚達をバックに写真を撮ってくれるサービスらしく、どうやらこの人達は順番待ちをしているらしい。
その光景を見て、中川さんとの思い出を写真という形で残しておきたいと思った僕は隣に居た中川さんの方を見た。
すると、中川さんは写真撮影が行われている場所を興味深そうな様子で見ているのが、視界に入った。
中川さんの様子を見て、同じ気持ちを抱いていると思い、嬉しくなった僕は中川さんに声を掛けた。
「中川さん、僕達も思い出に一枚撮ってもらおうか」
僕の言葉に中川さんは嬉しそうな表情を浮かべると、「そうね、行きましょう!」と、楽しそうに言うと、僕の手を引いて列に並んだ。
そして、そのまま列の流れに沿って少しずつ前に進んでいると、やがて僕達の番が回ってきた。
「では、次の方、真ん中にどうぞ!」
スタッフの方に案内されて、僕と中川さんはカメラの前に移動した。
他の人の前だとなんだか恥ずかしくなり、中川さんとの間を一人分程空けて立っていると、その様子を目敏く見つけたスタッフの方が口を開いた。
「二人とも顔が緊張していますよ。ほら、もっとくっ付いて笑って下さい!」
スッタフの方が明るい口調で言ったその言葉を聞いて、僕と中川さんは思わず顔を見合わせた。
すると、中川さんは軽く微笑むと、「人前だと恥ずかしいわね」と、言うと手を差し伸べてくれた。
僕は中川さんに微笑み返すと、「そうだね」と、言ってから中川さんとの間を一歩詰めると、差し伸べてくれた手を優しく握り返した。
「準備万端みたいですね。それではお写真をお撮りしますよ〜」
それまで、僕と中川さんの様子を優しい眼差しで見守っていたスタッフの方の言葉に反応して、僕達はカメラの方を向いて写真を撮ってもらった。
すぐに写真の現像が出来るというので、僕と中川さんは端に移動して待った。
少し待つと、スタッフの方が来て、「素敵な写真でしたよ」と、微笑みながら写真を手渡してくれた。
僕は、どんな感じに撮れたかが気になったので、「今、写真を見ても良い?」と、中川さんに尋ねた。
中川さんが、「私も気になるから見てみましょう」と、言って頷いたのを見て、僕は袋から写真を取り出した。
写真を見てみると、そこには自然な表情で笑う僕と中川さんが写っていた。
「……素敵な写真ね」
隣で呟いた中川さんとまったく同じ感想を抱いていた僕は、「そうだね。写真を撮ってもらって良かった」と、呟くと、互いに顔を見合わせて微笑んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます