告白を断った結果の三竦み関係
助部紫葉
00
俺の軽率な行動が呼んだ悲劇。
その日、俺は3人の女子から愛の告白をされた。
『水野ミナモの告白』
「神谷くん……。私、貴方のことが好き。私と付き合って欲しい」
「ごめん……。俺、実は土屋さんのことが好きで……。だから水野さんの気持ちには答えられない」
「そう……。そうだったんだ……。うん……。分かった。ごめん……変なこと言って……今言ったことは……忘れて」
『土屋ノマの告白』
「神谷くん。実はボク、キミのことが好きなんだ!好きって言うのはlikeじゃなくてLoveの方。だから、キミにはボクの恋人になってもらいたい!」
「ごめん……。俺、実は火爪のことが好きで……。だから土屋さんの気持ちには答えられない」
「えっ……。あ、ああ……。そ、そうだったのか……。キミはカガリくんのことが好きだったのか……。は、ははは……それなら仕方ないね。すまないキミを困らせるようなことを言ってしまった。今言ったことは忘れてくれたまえ!ははは!ははっ…………」
『火爪カガリの場合』
「神谷くん!私、神谷くんのことが好きです!この世の誰よりも大好きなんです!だから私と付き合ってください!」
「ごめん……。俺、実は水野さんのことが好きで……。だから火爪の気持ちには答えられない」
「嘘……。そんなの嘘です……。神谷くんがミナモちゃんのことが好きだったなんて……ヤダ。そんなの信じられない……。なんで……なんで、私じゃないの……う、うぅ……うわぁぁぁああああああーーーーッッッ!」
モテ期かな?などと思いました。
だけど、まあ、彼女なんて面倒臭いし。
3人の申し出は全てお断りさせて頂いた。
他に好きな人が居るって分かれば諦めもつくでしょ。
なんで俺になんか告白するのか……まったくもって意味不明だ。これに懲りたらもっとマトモなヤツに恋してもらいたいところである。
よし!帰ってソシャゲしよ!
今日は推しキャラの薫子ちゃんの水着衣装の実装日!イベント周回して石貯めてガチャや!絶対に当ててやるぜ!おっしゃー!
◇
とあるファミレス。
そこに異様な空気を放つ3人の女子高生がテーブル席に座っていた。
つい先程、告白してフラれた水野ミナモ。
つい先程、告白してフラれた土屋ノマ。
つい先程、告白してフラれた火爪カガリ。
3人とも同じ男に愛の告白していた。
同じ学校の神谷ムツという男子生徒である。神谷に伝えてはいなかったが3人は同じ人を好きになった者同士として裏で話し合い、全員で同じ日に告白すると約束を交わしていた。
どんな結果になろうと怨みっこ無し。誰が上手くいこうが、その人を他2人が応援しようなんて青春バトルものみたいな熱い友情の約束までしていた。
しかして、
全員その告白を断られていた。
皆が皆、別に好きな人が居ると断られていた。
しかし、3人それぞれ、その神谷が好きな人の名前は別々の者を教えられた。
水野は神谷が土屋を好きと聞かされた。
土屋は神谷が火爪を好きと聞かされた。
火爪は神谷が水野を好きと聞かされた。
つまり、
神谷への告白後のこの場で、
水野は土屋が彼女になったと思っており、
土屋は火爪が彼女になったと思っており、
火爪は水野が彼女になったと思っており、
なんかもう完全によく分からない状況になってしまっているのであった!(爆)
「………………」
水野は顔面に無表情を貼り付けてはいるが内心では苛立っていた。
それもそのはず、神谷と上手くいったはずの土屋が浮かない表情をしているからだ。なんで付き合えたはずの土屋がそんな表情をしているのか。
少し変わったところはあるが土屋は心優しい子だ。だから恐らく神谷にフラれた水野達を哀れんで、そんな表情になっているのだと思った。
神谷に自分の気持ちを受け入れて貰えなかった思いも合わせて、水野は今にも土屋の胸ぐらを掴んで顔面に拳を叩き込みたい気分である。
対して土屋の気分はフラれたショックも相まって酷く落ち込んでいた。
泣き腫らして目を真っ赤にした火爪を見る。
神谷は火爪が好きだと聞かされ、そして火爪は神谷に告白しているのを知っている。その結果は火を見るよりも明らかだ。
おそらく、火爪は神谷と付き合い始めたことだろう。それで嬉しさのあまり火爪は大泣きしたのだろうと土屋は予想する。
自分の想い人が自分では無い別の誰かと付き合うことになった。これが寝取られか。胃が重たい。今にも吐きそうだ。
火爪は泣き腫らし赤く充血した瞳で、無表情の水野を見る。
この女が。この女が。この女が。私の。私の。私の。私の。私の。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。絶対に許さない。
「まー、その……。なんだ……。遂に結果が出てしまったね……」
異様な空間で口火を切ったのは土屋ノマだ。
「そうね」
それに水野は端的に返し、
「……………………」
火爪は沈黙で返答した。
「だからというのもアレなんだが……。もう、こうして3人で会うのはーー」
「やめましょう」
「…………ッ。そう、だね……」
決裂。
水野の一言が決定打となって3人の関係を分かつことになった。
つい前日ーーなんなら今日の朝方まで3人の関係は良好であった。同じ男を好きになったもの同士。何かと気があう3人だった。
しかし、それもこれまで。
「……………………」
無言でフラりと幽鬼のように火爪が立ち上がる。そのまま何も言わずに覚束無い足取りでその場を去っていく。
「それじゃ、さよなら」
次に水野が立ち上がり、テーブルに自分が飲んだコーヒー代のみの代金を置いてその場を去っていく。
「はぁ……」
1人残された土屋は大きな溜め息を吐きながらテーブルに突っ伏す。
「好きな人も……友達も……。全部、失ってしまったね……」
考えていたことを言葉にして発したことで、さらに現実味が増した気がして、余計に気が滅入った。
胃が重たい。吐きそう。
後悔があるか。間違いなく後悔しかない。告白などしなければ、これからもみんなで楽しくすごせていたのかもしれない。しかし、日々積み重なる自分の想いを抑え込むことが出来なかった。それは土屋だけではなく他の2人も同じこと。
だからこんなことになってしまった。
土屋はその場から暫く動くことが出来なかった。
告白を断った結果の三竦み関係 助部紫葉 @toreniku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます