第5話 のりたま占い

 ガチャ


「いらっしゃい。さ、あがって」


「ごめんね。迎えにいけなくて。のりたま占いをする時に湿気はダメだから汗をかきたくなくて」


「暑いかもだけど除湿モードで我慢して。風が吹いたら全てが台無しになる上に掃除も大変だから」


「炊飯器のセットはしてあるから安心してね。占いが終わる頃にちょうど炊き上がると……いいなぁ。逆かな。ご飯が炊ける時に占いが終わってほしい、かな」


「で、どう? わたしの部屋。女の子らしさを残しつつ占いの館みたいなあやしさもあるでしょ?」


「どうぞどうぞまじまじと見ていいよ。見られて困るものなんて何もないから。むしろ占い師としてのわたしの姿を目に焼き付けてほしい」


「今日は仕方ないでしょ。ほんっっっとうにのりたま占いは大変なんだから。もはや競技と言っても過言ではない。男の子を部屋に呼んでジャージって自分でもどうかとは思ってるの!」


「もしかしてわたしの可愛い私服を期待してた?」


「その期待には応えないとだよね。占いの練習に付き合ってもらってるし。そのご褒美というかお礼というか……」


「と、とにかく早く始めよう。ご飯が炊けちゃう」


「えーっと、それでですね。やっぱり個包装のにさせてください」


「ほら、量の加減とか。多すぎると大変だし、少ないとご飯にかける時に味気ないし。その点これなら何も悩まなくていい」


「それでね、ひとつ提案があります」


「お互いのりたま占いをし合いませんか?」


「ほら、監視するだけじゃつまらないでしょ? わたしがのりたまからのりを分けてる姿に見惚れたい気持ちもわかる。わかるけども」


「え? 今日はのりだよ。うん。初心者がいるのにたまはレベルが高すぎる。わたしはたまでもいいんだけど、ここは相手に合わせてのりを選択するってわけ。人には優しくしないとね」


「ささ、遠慮せずに。このお皿を使って。あんまり大きい声は出さない方がいいよ。ちなみに黙々とやるのはダメ。好きなのか嫌いなのかわからなくなっちゃうから」


「ぜっっったいわからなくなる。今つまんでいるのが好きなのか嫌いなのかわからなくなったら努力が水の泡だよ」


「小声でいいから絶対につぶやくこと。あ……でも、二人でタイミングでズレたらそれはそれで混乱するかも」


「よ、よし! わたしが好きの時だけ声を出す。二人で無言なのもなんか変だし、好き、頭の中で嫌い。好き、頭の中で嫌い。うん。これなら間違えることはない」


「大丈夫大丈夫。それに嫌いってあんまり口に出したくないし。好きみたいなポジティブな言葉を発することも良い占いには必要だよ」


「それじゃあいくよ。ほらほら。お箸でどんどんつまんでいかないと終わらないよ」


「好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……」


「話掛けないで! えっと、今好きをやったから次は無言。よしよし。終わるまでは絶対集中! わたしじゃなかったら絶対混乱してたから」


「好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……好き……」


「…………ねえ」


「少し手伝ってあげる。のり、三枚もらうね」


「不正じゃないよ。手こずってるみたいだから」


「好き……好き……」


「好き」


「ねえ、いっぱい好きって言われてたらさ、だんだん好きになってきた?」


「最初はね、また外れたって思った。占い師は自分を占えないし。だけど、占いの練習に付き合ってくれた」


「やっぱりわたし、占いが好き。こうやって地味な作業をしてても楽しかった」


「ずっと外れ続きだったからさ、そろそろ当たってもいいと思うんだよね」


「そっちはどうだった? 好き? 嫌い?」


「えぇ……嫌いだったの。あぁ、わたしがのりを三枚取ったからか……」


「じゃあさ、二人ののりを合わせたら好きってことにならない? 結局は奇数か偶数かの話だし」


「夢がないって? まあ、結局は花占いのめっちゃ大変版みたいなものだし」


「初めての共同占いってことで。ね? 運命を共にしよう」


「結婚する時期も同じっぽいし、わたしが未来のお嫁さんかもね」


「占い結果をどう受け止めるかは本人次第だけど。わたしは……アリかなって思う」


「わたし、猫に好かれる人が好きなんだ」


「ここまで占いが後押ししてるんだから、あとは勇気を出してほしいな」


「ちなみに。今朝わたしが水晶で占った結果によると恋愛運は絶好調だって。その目は信じてないな?」


「しょうがない。さらに運が良くなる一言を授けよう」


「大好き」

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