第12話
助け出されたステファニアとリタ王女一行はブラス王国の王城で数日間過ごすことになった。一応、表向きは『ブラス王国の王都を夫と観光しにきたリタ王女とその付き添い人達』ということになっている。
今回の公爵令嬢誘拐事件の背景にはブラス王国側にも協力者がいたため、ここは互いに今回の事件はなかったことにしようとなったのだ。
一度は生涯『聖女』でいる覚悟を決めたステファニア。でも、状況が変わったことで、心境も変わった。正直……ホッとしている。
「ステファニア様」
「どうしたの?」
「ルカ卿がきたようです」
「通してちょうだい」
ルカを呼び出したのはステファニア。ロザンナはルカを部屋の中に招き入れると、心得ていたようにそのまま部屋を出て行った。ただし、部屋の扉は少し開けたままで。
ルカはステファニアの向かいのソファーに腰かけた。そして、ステファニアの顔色を窺う。
「もう、大丈夫?」
「はい。おかげさまで」
そもそも冷遇されていたわけではないので体調に問題はない。ただ、精神的なストレスを感じていたのは確かだ。
「よかった。……それで、話って」
「ふふふ」
「な、なに?」
「ルカ卿ってそんなにせっかちさんでしたっけ?」
ルカの頬が赤く染まる。口を閉ざしたルカに、少し意地悪をしすぎたかとステファニアは口を開いた。
「お呼びしたのは、感謝を伝えたかったからです」
「え?」
「今回もルカ卿に助けられました。本当にありがとうございます」
「あ、いや。僕は別に……何もしてないから」
言葉尻が小さくなり、うつむくルカ。そんなルカをステファニアはじっと見つめた。
「ルカ卿。ルカ卿がいなければ私は二度とオルランドの地を踏むことはできなかったでしょう。母国を裏切る同然のことをしようとしていたのですから。……ブラス王国に着いた時、もうすでに私は諦めていました。でも、ルカ卿が助けに来てくれた。扉を開いたあの時、ルカ卿の顔を見て、私がどれだけ安心したことか」
「でも……僕はエディが何か企んでいるのに気づいておきながら、ステファニアがさらわれるのを止められなかった」
「……お母様達の無事を確認し、保護してくれたのもルカ卿だと聞きました」
「それは……でも、結局エンリーチ公爵夫妻は近くの店に移動させられていただけで、何もされていなかった。元々危害を加えるつもりはなかったんだろう。それなのに、僕が焦ってそちらに人数を割いたせいでステファニアは……」
「それはただの結果論です。私をさらえないとなった場合、お母様達を交渉の材料にするつもりだったのかもしれない。それに、私はあの時怪しいとわかっていながらついていきました。だからルカ卿がそのことで罪悪感を覚える必要はないんです。……そもそも、婚約者でもないルカ卿に、侯爵家の跡取り息子であるルカ卿にそこまでのことを望めません。望んでも、いませんでした」
「っ……」
俯いて黙り込むルカに、ステファニアは小さく息を吐いた。ビクリと身体を震わせ、ゆっくりと顔を上げるルカ。ステファニアは微笑んだ。
「ですが、私はルカ卿のおかげでこうして助かりました。だから、素直に感謝を受け取ってください」
ルカは一度口を一文字にすると、苦笑した。
「ステファニアは、意外と頑固なんだね」
「ルカ卿こそ、もっと自信に満ち溢れている人かと思っていました」
「そう見せていただけだよ。……でも、そうだね。僕達は互いのこと、なにも知らなかったんだ」
「ええ。そうですね」
「そうなったのも僕のせい」
「そんなことは」
「いいや。その機会を減らしたのは間違いなく僕だ。……ステファニア」
「はい」
じっと見つめ合う。いきなり、ルカが頭を下げた。
「これは自己満足だとわかっている。でも、改めて謝らせてほしい。本当に、ゴメン」
「……謝罪を受け入れます」
「ありがとう。……それと、今の僕の気持ちも聞いてもらいたいんだ」
「今のルカ卿の気持ち?」
「うん。きっと、ステファニアを困らせるだろうけど。どうか聞いてほしい」
戸惑いながらも頷き返す。いつになく真剣なルカを見て、断ることはできなかった。何を言われるのだろうか。何だか緊張する。
「結論から言うと、僕はステファニアが好きだ」
「……え?」
困惑するステファニアを見て、ルカが自嘲気味に微笑んだ。
「そうなるよね。自分でも今更何を言っているのかと思うよ。でも聞いてほしい。……僕にとってステファニアは、ステファニアと結婚することは息をするのと同じくらい当たり前のことだった。それ以外の未来を描いたことは一度もなかった。僕の横はステファニア。ステファニアの横は僕。それくらい僕の中では当たり前のことだった。でも……違った。婚約が破棄されてからは、毎日のようにどうしてこうなったんだろうって考えていたよ。考えて、考えて、いつの間にかステファニアのことしか考えられなくなっていた。今ステファニアは何をしているのかなとか。僕を恨んでいるのかなとか。婚約していた時は僕のことをどう思っていたのかなとか。そんなことばかり。おかげで、自分の馬鹿さ加減についてもよくわかったよ。そうやって、ステファニアのことを考えていくうちに気持ちはどんどん膨らんでいった」
「それは……本当に恋愛感情ですか? 聞いている限り、たいして興味もなかった玩具をいきなり取り上げられたせいで興味を持ち始めた子供と同じような印象を受けましたが」
正直ルカの言い分を聞いても納得できない。
「うん。まあ、もしかしたらそうだったのかもしれない。最初は。だからこそ、僕はステファニアに気持ちを伝えるつもりはなかった。一過性のものかもしれないし、こんな自分勝手な気持ちをステファニアに伝えたところで困らせるだけだとわかっていたしね。でも……ステファニアから許しをもらった頃くらいからかな。僕の中で抑えられない感情が生まれた」
「抑えられない感情?」
ルカは気まずそうな表情で頷く。
「そう。一言でいうと……嫉妬っていうやつ。僕もロザンナみたいにステファニアから頼られたい。いつも側にいたい。当たり前のようにステファニアを抱きしめて、抱きしめ返してもらえる権利が欲しい。と思ってしまったんだ。ただ、それが気持ちを伝えようと思った理由じゃない。今回の事件で、ステファニアと永遠に会えなくなるかもしれない。その可能性に気づいたのが一番の理由だ。伝えない後悔より、伝える後悔の方がいい。ステファニアは困るだろうけど……きっとこれが最後の機会だから。だから、もし、もしも……ステファニアが嫌じゃなければ僕と結婚してほしい。もう一度ステファニアの横にいる権利を僕に下さい!」
勢いのまま頭を下げた。
ステファニアは呆れているだろうな。今どんな目で僕を見ているのだろうか。怖くて顔を上げられない。でも、今言った言葉に嘘はない。
覚悟を決め、顔を上げる。そして、ステファニアの表情を見て固まった。
首まで真っ赤なステファニア。でも、目はルカを睨みつけている。
――――こ、これはどういう反応?!
「エ、エンリーチ公爵家の一人娘としては……ルカ卿との結婚はありだと思っています。元々、結婚する予定でしたし、そのつもりで立てていた計画もありますから」
「いや、でもそれは」
「でも! 私は……ルカ卿と結婚するのが怖いのです」
「っ」
「もし、またジュリア様のような女性が現れたらルカ卿の一番がその方になるのではないかと、またあの時のような惨めな気持ちになるのではないかと。もしそうなったら私は」
「そんなことはしない!」
「信じられません! 実際、ルカ卿は聖女の契りを破ったじゃないですか! それに、今後は確かめる術もない。疑い続けなければならない……そんな結婚生活はあまりにも辛い」
「っ。それなら僕に見張りをつければいい。僕は構わない。それでステファニアが安心できるのなら」
「そんなことしませんっ!」
「じゃあどうすればいい。口約束だけではステファニアを安心させることはできないだろう? 僕はステファニアが安心できるならどんな方法だってかまわないんだ。愛する君の側にいられるのなら」
「嘘っ。愛してるなんて嘘よ」
睨みつけるステファニア。しかし、ルカは「嘘じゃない」とすぐに否定した。
涙が零れ落ちる。震える声で尋ねる。
「なら、なぜ聖女の誓いを破ったの?」
「それは、ゴメン。僕の甘さが招いたことだ。男女の友情は存在すると信じて疑いもせず、あんな女に隙を見せたから……唇を奪われた。本当にゴメン」
「……唇を奪われた?」
ルカは罪悪感いっぱいの顔で「そう」と頷いた。
「最初の頃は異様に距離感が近いやつだなと思って距離を取ろうとはしていたんだ。でも、マルコもそんな感じだったから『親友』の距離感ではそれが普通なんだと考え直した。今思えば最初から間違っていたんだ。しかも、馬鹿な僕はさらに間違いを重ね続けた。普通の婚約者がどういうものなのか知りたくてあの微妙な関係を利用しようとした。その結果がアレだ」
その時のことを思い出してしまったのか、唇を擦り始めるルカをステファニアは慌てて止めた。
「赤くなってる……」
「別にいいよ」
「よくないわ。見てるだけで痛そうだからやめて」
「わかった」
「ルカ」
「なに?」
「その……それ以上のことはしてないの?」
「それ以上?」
「そう。つまり【
「ちょっとまったー!!!!!!」
ステファニアの口を慌てて塞ぐルカ。その顔は先程のステファニアよりも真っ赤だ。
「な、なんでそんなことステファニアが知ってるんだ」
「もご、もごごごご」
「あ、ゴメン」
慌てて手を外すルカ。ステファニアは呼吸を整えると首を傾げた。
「皆知っていることではないの? 男女のお付き合いというのはそういうものなのでしょう? 最近の人気恋愛小説にはそのように載っていたわ……あの小説は高位貴族令嬢の間でも流行っていると言っていたし……」
「そ、そうなのか? いや、でも、多分それはあくまで小説だからの描写であって、その……と、とにかくそういうのはあまり外では口にしないのが一般的というか……特に男性の前では控えた方がいいというか……いらぬ誤解を招くというか」
「そ、そう。そうなのね。いや、落ち着いて考えたらそうよね。気をつけるわ。ありがとう教えてくれて」
「い、いや」
真っ赤な顔で無言になる二人。先に口を開いたのはルカ。
「さっきの答えだけど。それ以上のことはしていないから」
「本当?」
「僕があの時どこにいたのか思い出してみてよ。あんなところでそれ以上のナニカがあるわけないだろう」
「確かに……」
「……もしかして、今までそれ以上のことしたと思っていた?」
ステファニアは視線を逸らし、気まずげに頷く。ルカは目を見開いた。
「ありえないよ!」
「だ、だって聖女の契りが口づけ程度で破れるとは思っていなくて」
「口づけ程度?! 口づけは充分な裏切りだろう!」
「それはそうなのだけれど! 先例では身体の関係を結んで破った人達ばかりだったから! 私てっきりルカもそうなのだと思って……それで無理矢理されたなんて言い訳されても信用できなくて……まさか私の勘違いだったなんて」
「いや、でも、口づけは口づけだし。そう誤解されるような態度をとってきたのは僕だから」
ただ、それでも肩を落とさずにはいられない。それだけ信用を失っていたということなのだから。
「はあ……。改めて言うけど、僕はあの女に友達以上の感情を抱いたことはないよ。異性として見てなかったと言ったらさすがにそれは嘘になるけど、あの女とどうこうなろうと思ったことは一度もない。いきなり唇を奪われた時も、思わず突き飛ばしてしまったくらいだから。それ以上を求められても絶対に受け入れなかった。絶対にだ」
「そ、そっか」
「うん。今はもう関わってもないし……あ、ただ」
何かあったのかとステファニアはルカを見る。ルカは言い辛そうに続けた。
「あの女の
「いえ! その必要はないわ。ルカにとって『親友』がどれだけ大切な存在かはわかっているつもりだし」
「いや、でも今の俺にとってはステファニアの方が大事で」
「そもそも! 私だって、ルカ以外にも大切な人がいるもの。ロザンナやプリモ大司教、シモーナ、両親……下手をしたら私の方が多いわ」
ショックを受けた顔になるルカ。でも、それに対して文句は言えない。
「でも、あの時の私はルカが私より『親友』を大切にすることに不満を抱えていた。本当は私と会う日くらいは私を優先してほしかった」
「ゴメン」
「いいえ。その気持ちをルカに伝えなかったのは私。せめて、ジュリア様との噂を聞いた時に話していれば結果は変わっていたかもしれない」
「いや、それは」
「だから、私も悪いの」
「それは違う。悪いのは僕だ。聖女の契りを破ったのは僕なんだから、そうだろう?」
「それは……まあ」
ルカはコホンと咳払いをした。
「返事はいつでもいいよ。僕の気持ちはこれから先も変わらないから。ゆっくり考えて」
「いえ、それはさすがに。侯爵家に迷惑をかけるのは」
「大丈夫。ここに来る前にステファニア以外と結婚するつもりはないって宣言してきたから。ステファニアに振られたら独身人生を貫いて、子供は養子をとるって。両親とは話をつけてきた」
「そんな……」
「これは僕が勝手に決めたことだからステファニアが気にする必要はないよ。もちろん、受け入れてくれたら嬉しいけど……受け入れてもらえなくても仕方ないと思っている。はっきり振ってくれてもいい。でも、僕の気が済むまでは足掻かせてほしい。僕がステファニアの隣を諦めるまでは」
吹っ切れたように微笑むルカ。ステファニアは困ったように微笑み返した。頬の熱はしばらく冷めそうにない。
◇
エディ達は秘密裏に王城の地下牢に入れられていた。皆、『自分達はこの先どうなるのか』『ステファニア様はどうしているのか』が気になって仕方ない。
ただ、その中でエディだけが表情を変えず、壁を背にしてその時を待っていた。
複数の足音が聞こえてきた。現れたのはステファニアとルカ、そしてロザンナ。皆がステファニアに駆け寄ろうとして「止まって。僕が話すから」というエディの一声で制止した。
エディがステファニアの前に移動する。ロザンナとルカから睨みつけられたが、エディが狼狽えることはなかった。ステファニアだけを見つめ、彼女が話し始めるのを待つ。
ステファニアはエディをじっと見つめ、口を開いた。
「あなた達の処分が決まったわ。あなた達は『公爵令嬢』である私をさらった。相応の罰を受けなければならない。……だから、私はあなた達全員をエンリーチ公爵家で引き取ることにしたわ。いずれは私の元で働いてもらう予定よ。使えるレベルになるまで厳しく指導してもらうから覚悟しておきなさい。明日にはここを出るからその心づもりでいてちょうだい」
言いたいことだけを言って、ステファニアは踵を返す。ルカが後に続いた。けれど、ロザンナはその場に残った。ステファニアがいなくなり騒ぎ始める皆の中、ロザンナはエディに近づいた。
「これで満足か?」
「何がです?」
「今回の件、どう転んでもお前の勝ちは決まっていたんだろ」
じっと見つめ合う二人。しばらくしてエディは破顔した。
「ロザンナさんに
「おまえっ! おまえの我儘にこれだけの人数を巻き込んでおいてよくそんなことを言えるな! しかも、その尻拭いをステファニア様にさせるなんて! もし、『聖女』でないステファニア様に敵意を向けるやつが出てきたらどうするつもりだっ」
「そんなやつが出てきたら僕らが排除すればいいだけの話じゃないですか。それに、どうせステファニア様の元で働き始めれば皆もわかりますよ。『聖女』ではなく『ステファニア様』自身に価値があること。僕やロザンナさんのようにね」
「っ」
「本当、僕らってステファニア様の言う通りよく似ていますよね」
ふふっと微笑むエディと眉間に皺を寄せるロザンナ。
「一緒にするな」
と吐き捨てて出て行こうとするロザンナになおもエディは話しかける。
「仕方ないじゃないですか〜。僕らが似ているのは本当のことなんだから。ああ、それとステファニア様に尻拭いをさせたくないっていう気持ちは僕も一緒ですから。ロザンナさんも手伝ってくださいね~!」
ロザンナは返事の代わりに舌打ちで返した。エディはにんまりと口角を上げる。
ロザンナの才を見出したのはステファニア。そして、エディの才を見出したのもステファニア。
ステファニア様にその自覚はないのだろうけど。あの時から僕の世界は変わった。ステファニア様が示してくれた道。あの道に進んでいれば今頃僕は大成していただろう。でも、それでは意味がない。その道にステファニア様はいないんだもの。
だから僕は新たな道を
僕の選んだ
◇
「ステファニア様」
「どうしたのロザンナ?」
「本当にあれでよかったのですか? 今から撤回しても当主様は快諾してくれると思いますが」
「あれでいいのよ」
「でも、正直僕も不安なんだけど。特にエディ」
「ルカ卿と同じ意見というのは全く遺憾ですが、同感ですね」
「ロザンナ、僕に遠慮がなくなったよね」
「ええ」
「そ、そっか」
「それで、ステファニア様。エディだけでも教会に戻した方がいいと思うのですが」
「必要ないわ。エディのことだからどんな手を使ってでも私の元に戻ってくるでしょうし、その後の尻拭いをする方が大変だもの。それに……もうエディは大丈夫よ」
「……なぜですか?」
「なぜって……ロザンナに似ているから?」
「……」
否定できずに黙っているロザンナ。ルカは確かに?と首を傾げたのだった。
◇
オルランド王国に戻ったステファニアを待っていたのは求婚の嵐だった。ただし、その全てをエンリーチ公爵とロザンナ、
エンリーチ公爵夫妻はステファニアの気持ちを尊重してくれた。おかげでステファニアは焦ることなくルカへの気持ちに向き合うことができた。そして、二人の婚約が破棄されてから一年が経った頃。二人は再び婚約を結んだ。
そこからは結婚までとんとん拍子。一ヶ月という最短期間で式を挙げた。急なことではあったが、二人の結婚式はまるで一国の姫君が挙げるのと同じくらいの煌びやかさがあったという。ステファニア付きの人々が全力を出した結果だ。
ちなみに、結婚式が早まった理由はステファニアの妊娠……ではなく発言が原因だ。
「ルカに似た子供が欲しいわ」の一言が決め手だったらしい。
そんな彼女の願いはその翌年には実を結んだ。シモーナ達が祝福をかけまくったおかげかもしれない。まさかの、先に結婚していた
ステファニアが産んだ赤子は女の子だった。それも銀色の髪と銀の瞳を持つ。ルカは落ち込んだ。エンリーチ公爵もこんな気持ちだったのだろうか。否が応でも娘と離れ離れにならないといけない日がいずれやってくる。その時のことを想像するともう胸が締め付けられる。もし、教会でいじめられたらどうしよう。他の聖女達に馴染めなかったら。
けれど、ステファニアは大丈夫だと言った。きっとこの子にもステファニアのようにもう一つの大切な家族ができるだろう。だから安心してほしいと。
ルカは「そうだね」と返しつつも、娘を抱きかかえながら祈らずにはいられなかった。
どうか、この子がステファニアのような素晴らしい聖女になりますようにと。
そして、この子が選ぶ相手が決して聖女の契りを破るような相手ではありませんようにと。
そんなルカを見てステファニアは苦笑し、ロザンナとエディが辛辣な言葉を投げつけ、ルカに大打撃を与えたのも今となってはいい思い出だ。
「二度とステファニアを裏切ることはしない」
というルカの誓いは彼の生涯を終えるまで破られることはなかった。その隣にはいつも幸せそうな顔をしたステファニアがいた。ルカが望んだとおりに。
『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら 黒木メイ @kurokimei
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