第2話

………目が覚めた。


見知らぬ天井がぼんやりと視界に入る。どこか古びた木材の香りが鼻をくすぐるが、すぐにそれが何かを理解することはできない。頭が重い。体を動かそうとしても、力が入らない。


「ここは……どこ……?」

声がかすれる。自分の声すら聞き慣れない違和感があった。


体をなんとか起こそうとするが、全身に鈍い痛みが走る。それでも、壁に手をついて体を支えると、周囲の状況が少しずつ目に入ってきた。木造の小さな部屋。窓からは差し込む光がぼんやりと部屋を照らしている。


しかし、それ以上のことが分からない。自分がどうしてここにいるのか、この部屋がどこなのか……何もかもが空白だった。


――私……誰?


自分の名前を思い出そうとするが、頭の中は霧がかかったように曖昧なままだ。手を見ると、何の変哲もない肌。特別な印も、記憶を呼び戻すヒントも見当たらない。


「何も……分からない……」


喉の奥から搾り出したその言葉が、部屋の静寂に吸い込まれる。足元に置かれた壊れた鏡に目をやると、自分の顔が映り込んだ。だが、そこに映っている人物が誰なのかすら分からない。


目の奥が熱くなった。けれど涙は出ない。ただ、胸に込み上げる不安と恐怖だけが全てを支配していた。


その時、ふと部屋の奥からかすかな音が聞こえた。ドアの隙間から何かが覗いている。


「誰か……いるの?」


震える声で呼びかけると、ドアが軋む音を立ててゆっくりと開いた。そこに立っていたのは――。


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人生紛れ あ(別名:カクヨムリターンの人) @OKNAYM

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