第2話

32日前。


「魔王様…お辞めくださいそれだけはッ…!!考えを改めてくださいッ…!!!」




暗い空に溶けそうなほど巨大で高く黒い城。


この大地を統治する魔王エルダンの住まうまさしく魔王城は高さにして400メートルもあり、幾千の亜人種魔族の肉体が象られた彫刻と、幾千のステンドグラスのようなクリスタルアートのようなものが巧みに混ぜられた。 不気味さと美しさを極めたようなデザインだ。


当然ながら魔王エルダンと、その眷属の幹部【十八幹位親従】、そしてその他のべ170名の使用人住んでいる。


その城の玉座に座する魔王の前に、一人の魔族が跪き、必死に訴えかけていた。


「ほぅ…なぜだ?リネシャルよ」

魔王は、その魔族の訴えに少し驚いたように言った。

「…な?!どれだけ恐ろしい事をしようとしているか理解しているのですか!?」



エルダンの返答を聞いたリネシャルが声を張り上げる。だが、そんな彼女に対してエルダンは淡々とした口調で言葉を返した。


「ああ……わかっている…」


「この世界最大の禁忌です。死の国の王を召喚出来たとして、我らの味方として、この地に来てくれる保証なんて無いじゃないですか……。それどころか魔王様の命を吸い取り、我らの命を根こそぎ吸い取るかも知れないんですよ……?それに…」


リネシャルはエルダンの言葉を聞いた後、堰を切ったように次々と疑問を彼にぶつける。だが……


「それに?なんだ……?」


魔王エルダンの一言に、彼女は言葉を詰まらせた。


「っ……それは……いくら人間共の命だからといって式騎士や冒険者以外の…我々に危害を及ぼさない人間まで巻き込んでしまうことになるのですよ?」


リネシャルはどこか諭すようにエルダンに言う。だが……エルダンはそんな彼女の言葉を聞き、諭すような口調をリネシャルに返す。


「リネ…今も外にいる連中がこの場に入ってきたら……どうなるかわかるよな?」



「それは……」

エルダンの言葉を聞き、リネシャルは口籠もる。

確かに今の125層には大勢の騎士や冒険者達が侵攻を開始している。彼らがこの建物に入ったらどうなるのか容易に想像出来たからだ。そんなリネシャルの気持ちを察したのか、エルダンが彼女に言った。



「リネシャルよ……お前はこの魔族の未来をどう考えている?」


エルダンはそう言うとゆっくりと玉座から立ち上がり、リネシャルの方に向かって歩き出した。その一歩一歩が重く響くような音で響き渡り、リネシャルは思わず息を飲む。



「我ら魔族は……人間や獣人族など他の種族と比べても圧倒的に寿命が長い。そして魔力量もだ」

エルダンはそう言いながら、ゆっくりとリネシャルの目の前まで歩みを進める。

「だが……そんな我らが人間どもに虐げられ、差別され挙げ句の果てには殺され……滅ぼされる寸前まで追い込まれる」


エルダンの口調が少しずつ強まってゆく。そしてリネシャルの目前まで詰め寄った魔王は、彼女の両肩を掴みながら言った。


「なぜだと思う?我らは人間どもに勝てぬ……そんな現状をどう思う?」

エルダンはリネシャルに問いかける。その目は真剣で、どこか切実な思いを感じさせるものだった。しかしリネシャルはその目を見て思わず目を逸らしてしまう。するとエルダンは彼女の両肩を掴む手に力を込めた

「っ……」

「幅だ…」


エルダンはリネシャルの耳元で囁くように言った。


「え……?」


リネシャルは驚き、思わず顔を上げる。するとそこにはエルダンの真剣な目があった。そして彼は続けて言った。


「我ら魔族が人間どもに勝てない理由は一つ……それは『幅』…もしくは『個性』とも言う」


「幅?個性?」リネシャルは首を傾げる。エルダンはそんなリネシャルの様子を気にせず、話を続けた。


「そうだ……姿、形にそれぞれ、我々魔族ほどの違いはない…故に分かりづらいが、奴ら一人一人の能力値には、明確な違いがある。魔力量も、筋力も……種族ごとに決まっているステータスという物があるのだ」


エルダンはそう言うとリネシャルから手を離す。そして再び玉座に戻って行きゆっくりと腰を下ろした。


「故に数と僅かな年が…生む…我々魔族を滅ぼすのに適した…そしてそもそも戦闘に最適化した…肉体と精神を持つ存在がな…奴らはそれを『英雄』もしくは『勇者』などと呼ん呼んでいる」


「ですがエルダン様…それを言うならあなたとて、従来の我々に比べて遥かに高い魔力と筋力、そして……その膨大な知識があるではないですか……」

リネシャルはエルダンに言う。しかしエルダンは首を横に振った。


「否…足りぬ…奴らのそれに比べてまるで足りぬのだ……。だからこそ…確実に生み出す必要がある…魔族側サイドの『英雄』を」

エルダンはそう言うと、リネシャルに鋭い視線を向けた。その目を見て彼女は思わず息を飲む。


「冥王…それが我々の側に着くとは限りません…下手したら最初に滅ぼされるのは…」


リネシャルがそう言いかけた時に魔王は、衣服の裾から銀の鎖が巻きられ、中央部に赤い宝石が埋め込まれた首輪を取り出した。



「それは?」


リネシャルが尋ねるとエルダンは言った。


「【グレイダル・レプリカ】かつてこの世界を生み出したとされる女神【ハヅキ】を屈服させ、世界樹の楔として封印するために用いられた【旧王のグレイダル】…それと、同一の性能を持つ模造品だ」


「っ!?」


エルダンの言葉にリネシャルは言葉を失う。

そんなリネシャルの様子を気にも止めず、エルダンは続けた。


「……あらゆる生物の力を制限しかつ、現在の持ち主となっている私の命令を強制出来る…っていう代物だが、この世界の創造神に対抗できる代物だ…大抵のものに使うには過ぎていると思ったのだが…冥王なら」


エルダンは首輪を握りしめる


「最恐の存在…それに対しての対策だ…。この首輪は、対象を召喚した瞬間から、私の手から自動で転送されてその者の首に巻き付く」


エルダンはそう言うと、首輪をリネシャルに手渡す。リネシャルは慌ててそれを受け取った。


「コレを私に?」


リネシャルは首輪を見つめながら言う。するとエルダンは言った。


「ああ……支配権はお前だ…リネシャル。コレでお前も奴に命令できるようになった。 よく覚えておけよ…その形状…魔術の発動が完了した時に…それが嵌められたやつが…」


エルダンはそこまで言うと突然、ピタリと言葉を止めた。そしてリネシャルを真っ直ぐ見つめて言った。


「正真正銘の冥王だ…」

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閻魔転生 倉村 観 @doragonnn

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