夕闇を望む

@Arc_qui_ne_faut

プロローグ

 我ながら低劣な女だと思う。自己中心的かつ飽き性で生来、人と関われるような性格にはできていない。その上、人を傷つけたとして一時は罪悪感を覚えども、翌日には何事もなかったかのように過ごせる。

 なまじ省みる姿勢があるだけにそれを言い訳として過去を精算した気になるようなどうしようもない奴だ。

 こうやって自己分析して自分がクズであることを確認して、自罰したふりをして。それで、なんとなく許されたような気になるのだからまたどうしようもない。


 こんな人間でも容姿が優れているせいか、色々な人間が友人になりたがるし、幾人かの物好きな女と恋仲になったこともある。とはいえ、ある程度はいい人なふうを装えても、少しでも深く関わればたちまち本性が露呈する。

 約束は守れないし、話は聞かない。怠惰だし、デリカシーがない。その結果、当然に関わろうとする人間はたち消えた。

 

 なんの因果か、一番深く関わってきた幼馴染の彼女を除いてだが。


 幼馴染、玲華という。とのことはいくら薄情な私といえ、忘れてはいない。なんせ、こんな奴に関わってくれる酔狂なやつなんて両親か彼女くらいなものだ。流石にそいつを無碍にできるほどクズを極めちゃいない。

 親切の権化みたいなあいつはいつでも私を気にかけてくるし、そばにいてくれる。離れている時間のほうが少ないくらいだ。

 私が学校でうまくやっていけるのも、彼女がいつも仲裁してくれるからだ。そうでもなければ今頃、卑劣千万で同性愛者の私なんぞ格好のいじめの標的であって、登校しているかも怪しい。

 なぜ玲華のような出来た人間が私なんぞにご執心なのかは全くわからん。彼女にでも聞いてみてくれ。

 

 ところで、最近私のメシアは恋をしているらしい。


 物憂げな双眸が夕日に塗られた窓外の景色を眺めているし、そういえば最近、二人で出かけるときに洒落た服を着るようにもなった。

 実に典型的な行動をするものだなあなどと感心しつつ、私との閉じた関係に終始するよりかは、幾分どころか随分健全ではないかと思ってみる。

 いくらかの寂しさを感じないでもないがこれを期に私が離れればいくらかは彼女に受けた恩義を返せるだろう。


 と、強がってはみたものの実際、彼女がいない私などただの社会不適合者でしかないわけで。

 無視されるだけですむそこら辺の石塊よりも酷い仕打ちを受けるだろうことが容易に想像される。

 無機物にも劣る扱いをされるのが摂理といえども、彼女という装束に守られ温められてきたところで急に身ぐるみ剥がされるとこちらとしても非常に困る。

 それに、私とて人間だから長く過ごした相手に愛着を持つこともあるだろう。どこの馬の骨ともわからん輩に幼馴染をくれてやるかという気持ちがないわけでもない。

 私の心は傷つけることに強くとも、傷つくことには存外弱いことを知っている。

 

 ともすればどうだ。今までに散々世話になってきた玲華の恋心を無下にして、彼女を私の元に留め置いておくというのか。


 いや、こんな無意味な論議はよそう。私が私である以上、最初から結論は決まり切っていた。

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