第4話 失落

アルトと出会ってからはや1ヶ月程経った。今では、逃げる術を手に入れたらしく、アルトは暗い顔せずに来ることが多くなった。


ただ、今日はいつになく重い空気に、アルトもいい表情をしていない。


「魂さん、僕から貴方にお願いがあるんだけど、いいかな……。」


沈黙という肯定の相槌があった後、アルトが海の方角へ目をやった。

それは、どこか悲しく儚い様な視線を向けていた。


「実はね、僕は呪いを掛けられているんだ。」


呪い……とここに来て、彼の口からは初めて聞いた言葉だった。

私の知る限り、呪いは人を死にたらしめる物だった。


「それも、僕に呪いを掛けた呪術師はとっくに死んでる……。だから僕は死ななければいけない運命なんだ。」


その言葉は私の心を締めつけた。キュッとなった心に戸惑いが溢れる。


「魂さんに教えてあげる。呪いは魂源に為されるものなんだ。だから…、魂さん……。」



うすら寒い空気が私の気を狂わせるかの様に吹く。私は苦しむアルトに何も出来ない自分が嫌だった。


「実はね、魂源は身体を乗っとることができるんだよ。契約をすれば永遠に。魂さんにお願いしたいんだ。」



私は考えることで精一杯でアルトの気持ちを汲み取ることが出来なかった。

どうしても、彼の願いなら…、とよぎるが彼の人生に私が介入するわけにはいかない。



魂というのは人間の身体の人格を作り出すものだった。呪いはその魂、魂源に為されるため、身体の魂が入れ替われば呪いは消えるのだと。





ただ時間が流れていくことだけはわかる。

アルトのことを考えるのでいっぱいで、それまで意識していた些細な景色の変化にも気づく余裕はなかった。



翌日、アルトは魂源魔法の専門魔導書を持ってきた。それは前に見た本とは違って暑さのないものだった。

アルトは1ページ目から一言も飛ばさずに音読した。

魂源魔法の原理、危険性、可能性、そして実行するための方法。




それはそれは古臭い言葉の言い回しが面白いのか、アルトはたまに笑う。

しかし、アルトは真剣な眼差しで、すらすらと、読み続ける。



アルト自身は助かると思っているらしい。でも、呪いが解けたところで彼の人格はなくなってしまう。私が彼の身体で生き続けていいのだろうか。



色々なことを考えながら、いつの間にか残りの数ページに差し掛かっていた。


いつもの様にページを捲るとそこには、見開きに複雑な魔法陣らしきものが書いている。

アルトは本に書いてあったことを理解した上で魔法陣に手をのせた。



「これで…、僕は楽になれるんだね。」



目尻に浮かんだ小さい涙の粒が光を反射するのを見た。






——リバイス————————


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私は魂です。聴覚も視覚も嗅覚もあります。どうすればいいですか? ショウ @shine___

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