第3話 私事

あれから3日経った。「また来るね。」と言っていたアルトは未だに顔を見せてくれていない。

私の知らないところで何か危ない目に合ってはいないか……など、どうしても不安を募らせてしまう。


私が最初に見た白い花はアルトに踏まれて折れ曲がっていた。あれほど凛々しく咲いていた花も、折れ曲がってしまうと、自分だけでは回復ができない。月明かりも折れた花を照らすことはなく時間が過ぎる。


私はこの花に何もできないまま、また夜が明けた。



「魂さん、ごめんなさい。遅くなっちゃった。」

分厚い本を抱えたアルトは小走りで私の方へやってきて、また以前と同じところに座った。


「実はね、魂さんのことが気になって、書庫からヒントになりそうな本を持ってきたの。本を探してたらとても時間がかかっちゃって、4日も経っちゃった…。」


そう言って、本を広げる。本には、私の知らない文字で書かれていて、読むことはできなかった。アルトは、私のために声に出して読んでくれた。


「そう、38ページのここに、『彷徨える魂について』って見出しがあるの。ここに魂さん似た様な情報が載ってた。」



〈彷徨える魂について〉

生命は魂を持って生まれる。また、生命は終わると同時に魂が抜ける。これは生命と魂の関係であり、覆されることはない。

魂は多くの場合、生命の身体から抜け出した瞬間から、新たな身体を求めてゆく。そして、限りなく低い可能性として、魂が新たな身体を求めず彷徨うことがある。

この場合、魂自身は聴覚、嗅覚、視覚だけを持ち、その自我は己の身を動かすことはできない。

彷徨える魂の自我は一切として新たな身体を求めないだろう。

ただし、彷徨える魂の誕生の条件は不明。




「どうかな。合ってる?魂さん。」


アルトが音読してくれた限りは、私自身がわかっている事とも一致した。

もしかしたら、私は何処かの誰かに生まれ変わっていたのだろうか。それも、きっとアルトの存在も知らず、ここの風景も見ることもなく。


「あ…、魂さん。この本に、彷徨える魂の対処法って…。ダメだよね、これで魂さんがいなくなっちゃ、やだもん。」


アルトは私に気を遣ってくれたのか、対処法は飛ばして、後を続けて読み聞かせてくれた。




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