第2話 邂逅
獣の耳をつけた少女は私の横に座るや否や口を開く。
「貴方は迷子?」
もちろん、私は返事が出来ない。ただ、彼女の言葉を聞くことしか、私の出来ることの限界だった。
「そっか。魂さんは喋れないのね。」
「そうです。」と言いたいところだが、生憎、私は先程と同様に返事ができない。その代わり、彼女の言葉の後の沈黙が、それを彼女に教えた。
「僕はね、アルトって言うの。見た目は女の子っぽいかもしれないけど、性別は男だよ。」
獣の耳をピクピクさせ、その少年は続けた。
「すぐそこにとある国の王城があるの。僕はそこから来たんだよ。」
私は獣人の存在を改めて理解すると共に、少年について違和感を覚えた。
彼は、特にいい格好と言える服ではない。浮浪者の様なボロボロの服ではないものの、その服は少し薄汚れたような、また古いような服を着ていた。
王城から来たのは、従者か、それとも奴隷のような立場なのだろうか。私には理解ができなかった。
「おかしいでしょ。こんなカッコで王城から来たなんて……。私は実はこの国の王族の1人なんだ。」
まるで王族には見えないのは、失礼に当たるかもしれないが、私には不思議にしかならない。
少年は自分の身の上話を淡々と話していった。
この少年はアルト・クリストフ、この国ギルヴァディ王国の、前国王ハウスト・クリストフの11番目の子供。
次期国王候補の中でも、アルトは候補としては扱われなかった。
何故なら彼は、王が獣人の奴隷との間に成した子供だったからだ。
この国では獣人に対して、不当な扱いをする。獣人は魔法を使えないから、というのは理由の付属品だ。本当の理由は、獣人とヒトとの戦争で獣人が負けた事だった。
アルトは本来、王の血を引いているにも関わらず、次期国王候補にも選ばれず、不遇な事に彼は他の親類からは奴隷同然な扱いを受けていた。
「もう日が暮れちゃったね。早く帰らないと…。魂さん、今日は一日話を聞いてくれてありがとう、また来るね。」
彼はその言葉を置き去って行った。
私は人との会話ができて嬉しかった。返事は出来ないにしろ、友達の様な感覚で、まるで…。
______私はどうして記憶を失くしてしまったのだろうか。
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