私は魂です。聴覚も視覚も嗅覚もあります。どうすればいいですか?
ショウ
第1話 理由
風が強く吹き、草花は揺れ、木々の葉は自然を奏でる。雲の動きが時間の流れをよりいっそう感じさせる。
この無限に広がるような草原に私は1人存在していた。
目の前には見たことのない程綺麗な花が一輪、咲いていた。白い花弁が、凛々しく風に靡いている。僅かに香りが感じられ、心が和やかになる。
草原を見渡した先には、太陽の光を反射した蒼い海が広がる。
太陽は沈み、2つの月が追いかけっこをしながら同じ方向を目指していく。
そしてまた、太陽が昇る。
おそらく1日が過ぎると、海の方向に人影が見えた。「おーい!」と呼ぼうにも、この身体には声を発する機関がないらしく、さらには私には身体というものがなかった。
人影はおよそ半日かけて、見える限りの視界の端から端まで動き、気づけば見えなくなってしまっていた。
再び太陽が沈むと風の音、草の揺れる音、虫の音がとても静かに感じた。それと共に孤独感さえも感じた。
私は永遠にこの草原にただ1人、ぽつんと、存在していかなければならないのか……。
また少し時間が経った時、ちょうど太陽がてっぺんに昇った頃だろうか。何か聞き慣れない音が遠くから聞こえた。聞こえた音の中には人間の足音の様な音の他になにか別の音が入り混じっていた。
馬車が通った。昨日の人影よりも格段に近い所に人間が通った。かと言っても、私に気づいてくれる事はなく、またもや通り過ぎて行ってしまった。
あれから何時間が経過しただろうか。景色の変化は太陽と月の移動だけ、あんなに綺麗に見えた景色も今は大して何も感じない。
ふと、不安になってしまった。
私はこれまでの記憶がなかった。ただ多少の知識だけがあった。馬という生物の存在も知っていたし、人間も、自然たちだって、太陽が昇って追いかける様に月も昇ってそして沈む事も、私は知っていた。
私は過去の、私自身の記憶だけを失くしていた。
時間が過ぎていく、その変化が、今だけは鬱陶しく感じる。この世の無常感。
私は此処で永遠に生きるのだ。
あらゆる景色の変化を見尽くして、私は退屈していた。
海の方角をただひたすらに見つめていると、後ろから人間が近づいてくるような、二足歩行の足音が聞こえた。
ゆっくりと音は近づいてくる。そして、私の背後でその音は止まる。まるで、私に会いに来たかのように。
視線を横にやると、その人物像がわかった。
それは幼い、獣の耳を付けた少女だった。
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