無償の愛

桜桃

何も出来ない私

 私は、人に愛されてはいけない。


 私は、何も出来ない。

 何かを作ることも、与えることも、知識も、技術も。

 何もかもできない。ただ、この世界に産まれて、ただただ生きていただけ。


 ただただ、流れるがままに生きてきた私は、特に苦労はしなかった。


 家族には愛され、友達や仕事、恋人にも恵まれた。

 家族のことは時々うざいとは感じるけど、それでも愛されているという自覚はあり、絶対に捨てられないという自信もある。


 でも、それは家族だけ。

 他は、どうだろうか。


 今、私の周りにいる人達は、私自身を見てくれているのだろうか。

 何も出来ない、何もしない、やろうとしない私を。

 そんな私を、他の人は何と思うだろうか。


 苦労もせず、ぬるま湯につかってきた私を、他の人はどう思うだろうか。

 何も努力せず、ここまで生きた私を見て、他の人はどう思うだろうか。


 これを人に聞けば、似たようなことを聞けば、みんなは決まってこう言う。


『傍にいるだけで楽しいからいいんだよ』


 これは、親が子供に言うのならわかる。

 だって、実の子供は本当に可愛いだろうから。私にはわからないけど、子供がかわいいのはわかる。


 親から子供に与える無償の愛は、成立すると思う。

 でも、友人や職場の同期や先輩、恋人はどうだろう。


 何かが欲しいから、人と関わるのではないだろうか。

 絵が描ける、動画が作れる。的確な指示を出せる、判断力が高い。

 支え合える、家事が出来る。


 それぞれ、自分に利益が無ければ人と付き合わないだろう。

 自分に利益がないのに、人と付き合うなど、ありえない。


 私は、何も出来ない。

 何も出来ないから、人を不快にさせないように笑うの。

 偽りだろうと、我慢した笑みだろうと。


 何も出来ない私が、人と付き合う方法は、これしかない。

 でも、これも偽物の繋がり、表面上の関係。


 何も出来ない私が捨てられるのは、時間の問題。

 感情的になれば、我慢が出来なくなれば、私は人を傷つけるしか出来ない。

 そんな、何も出来ない私は、いつかは捨てられる、一人になる。


 その覚悟を持って、生きていかなければならない。


 ――――え? それなら、なにか作れるように頑張ればいい?

 それすら出来ないんだよ。


 やりたいことはあるけど、やろうとしない。

 努力をしない、自分に甘い。


 何も出来ないと嘆くのに、ないもしようとしない。

 他の人の努力を見ないで妬み、自分が出来ないのは他人のせいにする。


 こんな私を、誰も無償でなんて愛さない。

 いずれは、居なくなる。嫌気がさして、めんどくさいと思って、最低だと思って。


 そして、私は一人になる。

 そう考えるくらいなら死んだ方がマシだと思う。

 でも、思うだけで死ねない弱虫。


 この社会では無価値で、生きていても意味は無い弱虫。

 唯一出来るのは、笑うことだけ。


 笑って、笑って、人が不快にならないように立ち振る舞うだけ。

 そうすれば、いいの。それが、何も出来ない最低な私が出来る、最大限なこと。


 だから、私は思う。

 口では「信じている」「ずっと一緒だよ」と言うけれど、実際は信じてない。


 無償の愛など、家族以外には適用しない。

 無償の愛など、他人には通用しない。

 無償の愛など、 信じてはいけない。


 だから、私は笑うの。

 今日もまた、社会に紛れるように、人が不快にならないように――……


「○○ちゃん、これからもずっと一緒だよ」

「――――うん。これからも、ずっと一緒だよ」

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無償の愛 桜桃 @sakurannbo

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