ある兄妹の物語

太田 守

兄中学生視点→妹中学生視点

「お兄ちゃんは優しいね、いつも私を守ってくれる」


まだ僕が中学生の頃、小学生だった妹がそんなことを言ってくれた。

それは、クラスの男子にちょっかいを出されていたのを僕が助けた時。

愛くるしい笑顔を見せる彼女を僕は心の底から、可愛いと思った。



「そりゃ、僕のたった一人の妹じゃないか、当たり前だよ!」


平凡な容姿の僕と違って、人の目を惹く可愛らしい見た目、穏やかで優しい性格、身内から見ても非の打ち所がない、大切な僕の宝物。


「そっか~! お兄ちゃん大好きー!」


そう言うと妹は僕に抱きついてきた。そして大きな瞳で僕を上目遣いで真っ直ぐに見つめてくる。


「お兄ちゃん、私とずっと一緒にいてね、約束だよ」


「うん、真矢がそう言ってくれるなら、僕は真矢と一緒にいるよ、僕も真矢が大好きだからね」


僕は真矢をぎゅっと抱きしめた。真矢はえへへと笑って僕にすりすりと頬をくっつけた。

世界で一番大切で可愛い存在、ずっと守ってあげたいと強く思った。


この頃の僕は毎日が辛くても、妹の真矢がいれば何でも乗り越えられるような気がしていた。





ーーーーーーーーーーーーー



「長坂さん、好きです、付き合って下さいっ」


 やっぱり、そうだったか…。

今年に入って告白してきたのは何人目だろうか、多分4人目だ。

彼はクラスでもそんなに話したことのない男子生徒、名前は高橋くん。生理的に嫌いなタイプじゃない…けど…。


「ごめんなさい、私、人と付き合うとか今は考えてないんだ」


相手の目を真っ直ぐに見て断った。理由は嘘ではない、でも心の中にモヤモヤが残っていた。





「真矢 めっちゃ今年に入ってモテまくりじゃん、さすが美人は違うねー!」


「確かに、今年多いなって思う、どうしたんだろ」


「うわっ自覚なしかー! 髪型変えてさらに可愛くなってるくせにー」


放課後の下駄箱で、親友の彩花は、ニマニマしながら冷やかしてきた。この娘のこういう明るいテンションは嫌いじゃない。


「そうかな、そんなに変わって見えるもの? ただの気分転換だよ」 



「くーっ、モテ自慢かー! 何しても可愛い! 私なんか告白されたことないんだからなー」


「あーはいはい」


私は笑いながら受け流す。彩花は愛嬌もあるし頭もいいから、彼氏なんて普通に出来るだろう。


「私は恋愛とかって、今は考えられないなぁ、クラスの男子は子供っぽいし話が合わないもん」


「まあ、真矢くらいの美人だったらわざわざこんな中学で彼氏作るより、もっとイケメンで頭のいいこと男子と付き合えるもんね」


確かに幼少期から可愛いと言われてきた。小学生の頃からモテた。それでいて告白も全部断ってきたからお高く止まってると陰口を言われたりもした。でもそれは面食いだからとか、レベルの高い人と付き合いたかったわけじゃない




「真矢はさ、好きなタイプとかいないの?」


「え…」


「いや、あれだけ告白を断ってるし、好きな子もいないって言ってたからさ」


私は答えに窮した。好きなタイプ、ふと頭に浮かぶのは、たった一人の大切な人。

でもそれを言ったら彩花に変に思われてしまう。一年生の頃からの親友に嫌なイメージを持たれたくなかった。


「うーん、特にないかな、強いて言うなら誠実な人とか穏やかな人だよ」


「抽象的だね~!そう言うところが真矢らしいけど、ほらいつもあんまり本音を言ってくれないし」


私らしい…そうか、確かに私はいつも明確な回答をせず、直接的な表現も避けてきたもんな。自分のことだって周りには余り話さないし、どこか、本音を明かさない、それが彩花にはわかっていたんだ。


私にとっては本音を、そして本当の自分をさらけ出せる相手は一人しかいない…それは私の一番好きな人だ。



彩花と別れ、家路に就く。大好きな人が待っていると思えば、大嫌いな家に帰るのも苦じゃない。

私は大好きなお兄ちゃんを思い浮かべながら走り出したのだった。


























































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ある兄妹の物語 太田 守 @Mamoru-2024

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