生徒会長のウラおもて

化霧莉

プロローグ 俺しか知らない彼女の秘密

 都立とりつ楓華ふうか高校。

 俺こと御門みかげ 韋波いなみは、週1の全校朝礼で体育館に立っている。

 ダラダラと続いていた校長先生の話も終わり、次の項目へと進む。

 「次は生徒会長、かなで ︎︎栞依しおりのお言葉です」

 「はい」

 少し高めな声で放たれる透き通った声。

 列の後ろからでも確認できるような、凛々しく、眼鏡からも伝わる真面目な雰囲気。

 腰まである黒髪をたなびかせ、制服の上からでもわかる、出るところは出ているスタイルの良さ。

 一歩一歩の所作が綺麗で教壇に向かうだけで、男女問わず小さな悲鳴のようなものが聞こえる。

 教壇に辿り着くと、一呼吸した。

 「皆、おはようございます」

 一瞬で、ざわつきを治めた。

 そして、固い言葉だけどどこか優しい口調で話し始める。

 つらつらと発する言葉で、聴いているこっちを退屈させない。

 「私からは以上です。ありがとうございました」

 体育館からは、拍手が起きる。

 俺もつられて拍手をする。

 そこからは、様々な先生からの連絡などがあり、それが終わると教室へ戻ることとなった。


 俺は、2年5組在籍。自分の席に座ると、

 「うぇーい。朝礼めんどくさかったな」

 と金髪ハイテンション男として学年で名を馳せる千代せんだい 陸斗りくとが声をかけてきた。

 「お疲れ様。まあいつものことなんだし、仕方ないよ」

 「まぁな。校長の話はなげぇのは、いつものことか。でも、相変わらず、生徒会長は眼福だったよなー」

 「し……鍾生徒会長か。いつも通り綺麗だったね」

 「そうそう、いやー素晴らしい。彼女の頭から足先まで、2次元から出てきた美少女かよって、毎回思っちまうもんな」

 陸斗はうんうんとうなづきながら、一人で納得している。こいつ見た目よりもオタクで、アニメや漫画に詳しい。そういうものを見たくなったりするときは、聞くとだいたいいい塩梅の作品を答えてくれる。

 キーンコーン、カーンコーンとチャイムが教室に響き渡る。

 「やべっ、じゃあな」と陸斗は手をあげて、こちらに挨拶をする。

 俺もチャイムにならい、席に着く。

 担任の先生が、朝のHRを始める。今日という名の学校生活の始まりだ。


 2限が終わり、次の授業が別教室なので移動する。

 廊下を歩いていると、視線の先には生徒会長が歩いてくる。

 凛とした姿と立ち振る舞いは変わらない。遠目から見てもわかるほどに。

 俺は彼女とすれ違う。

 「御門君、ネクタイが曲がっているわよ?」

 俺はネクタイを見てみると、確かに曲がっていた。あまり自分で鏡を見ないから気づかなかった。

 「よく気付いたね、ありがとう」

 「気にしないで。生徒会長として、皆を見ている。当然のことよ」

 彼女は手をひらひらさせながら、去っていく。

 俺はネクタイを締め直し、別教室へ向かう。

 まだ、長い一日の途中なのだから。


 

 その後は、何も変わらない学校での時間を過ごし、放課後となる。

 俺は、そのまま家路につく。母が一人で家事などしているのを手伝っているため、俺自身は部活等の組織に所属していない。

 今日は買い出しをする日なので、そのままスーパーへ向かい、何日か分の食材や日用品を買いそろえた。

 家に帰り、玄関のドアノブをひねると開いている。

 「相変わらずか……」

 そう言いながら、「ただいまー」と家に入る。すると、

 「おかえりー」

 とリビングのほうから聞き覚えのある声がする。

 そこに向かうと、ソファーで横になってる緑のタンクトップとショートパンツをセットで着用する女の子。

 あの生徒会長、鍾 栞依だ。眼鏡をはずし、あの凛々しい雰囲気をかけらも感じない。

 「いーくん? 今日の夕飯何ー?」

 「今日は、ひき肉が安かったからハンバーグな」

 「おっ、いいじゃん! 肉料理大好き!」

 「はいはい、喜んでもらえて何より。大人しく待っててな」

 ソファーの上でぴょんぴょんと跳ねる彼女を見ながら、俺はエプロンをして、キッチンに立つ。

 そのあと落ち着いた栞依は、鼻歌を歌いながら、俺が買ったいた漫画を読んでいる。

 彼女とはどういう関係か? 話せば長くなるような感じもするが、隣同士で幼少期からずっと一緒に過ごしている。世間でいう幼馴染ってやつだ。

 彼女の両親は、二人とも学校の先生をしていて、彼女の面倒が見られないのを、ウチの母さんが了承をし家の鍵を渡していたり、夕飯や朝ごはんなんかも一緒に過ごしていたりする。

 だからこそ、彼女からの距離感はかなり近く、普通に身体を触ってきたり。俺はいつもドギマギしてしまう。

 それはそうだろう。こんな美人がそばにいたら誰だって……。

 そして俺は彼女に隠し事を1つしている。それは、栞依に恋心を抱いていること。

 こんな彼女だが、悪く言ったら、昔から学校では外面のいい彼女。だけど、こうして自分にしか見せないラフな姿や言動にいつしか惹かれていった。

 2人だけ、家族といる時だからこそ見せてくれる姿の彼女も含めて好きになった。

 でも、俺はきっとこの想いを伝えることはないだろう。この関係が壊れることが嫌なんだ。これはきっと自分のわがままだ。この距離感だからこそ、気軽に話しかけられる関係でいたいんだと。

 俺は、バカだなーなんて思いながら、料理を完成させた。

 「できたよ。皿とかの準備くらい手伝ってよしおり」

 「りょうかーい。今行くー」

 彼女に声をかけ、夕飯の準備をする。

 彼女とこうした作業をするだけで少し心躍る。

 キッチンもそこまで広くはないため、お互いが少し触れ合うたびに俺はドキドキする。

 お互いに協力して、料理をテーブルに並べ、席に着く。手を合わせ、

 「「いただきます」」

 彼女は、ハンバーグを口に運び、大きく一口。

 「おいひい~! やっぱいーくんのよういふぁいこうー」

 「ありがと。でもとりあえず、口の中のもんどうにかしてから喋ろうな?」

 俺がそう伝えると、よく噛んでゴクリと飲み込んだ。

 「いやー、ごめん。学校でキャラ作ってる分、オフだとついついね」

 「あれは露骨に作りすぎだろ。別に素でもいいんじゃないか?」

 「ダメダメ。私、お父さんたちみたいにいい大学出て、やりたいこともあるから学校の評価は上げておかないとね。だから入学時からあのキャラで、なおかつ生徒会長にも立候補したんだから」

 「そんなにやりたいことって、明確にあるんだっけ?」

 「うん。いーくんには言ってないだけであるよ」

 「それって何よ?」

 そう彼女に言うと、自分の唇に人差し指を当てて、

 「内緒だよ」

 と、言われてしまった。その仕草にドキッとしてしまった。俺は心の中で「やっぱ、可愛いな。クソ」と悶えていた。

 俺は、毎日こうして彼女に振り回されながら生きている。

 いつか、自分の気持ちを伝えるときは来るのかなと、想いながら。

 

 

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生徒会長のウラおもて 化霧莉 @KEmuri913

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