第5話 森を護る竜

「皆さん、逃げてください!」


 祭りの主催者なのか、逃げるように誘導する魔女達。そして、竜に向かって飛び立つ魔法使い達。

 逃げなくてはいけない状況であるにも関わらず、キノとグレンはその場から動かないでいた。

 竜は大きな翼をバサリと動かし、耳の奥が痛む程の鳴き声を轟かせる。


「キノ! グレン! 早く逃げよう!」


 何処からか、ヒューイとライアンが駆け寄って来た。

 二人の腕を取って、引っ張ろうとしたが、キノが「待って!」と声を張り上げた。


「あの竜は大丈夫だ!」

「大丈夫って! 初めて見るのに、何がわかるの?!」

「わかるんだ! だって、竜はこの森を護っているんだろ? なら、危険なはず無いんだ!」

「何言ってんだよ、キノ!」


 キノは三人の制止を振り切り、逃げる人々と反対方向である舞台へと駆け出した。


「キノ!!」


 グレンが後ろから走り追い付くと、二人は舞台に駆け上がった。


「なにか、竜に対する対策は書いてないのか」


 グレンがいつになく焦りながら、買ったばかりの『魔法使い入門』の本を捲る。


「グレン、大丈夫だ。落ち着いて。竜の目を見て。僕らを観察してる」


 キノの言葉に、グレンはゴクリと喉を鳴らす。


『紳士とは、常に礼儀正しく在らねばなりません……』


 ふと、学校の授業が頭に浮かび、キノは授業で習った紳士の挨拶である【ボウ アンド スクレープ】の姿勢をとった。

 キノの姿をみて、グレンも慌ててお辞儀をすれば、竜がうやうやしく首を垂れる。そして、ゆっくりと向きを変え、森の奥へと帰っていった。それを見て、キノとグレンは深く深く息を吐いて、その場にへたれこんだのだった。




 鳥の鳴き声が響く。

 閉じた瞳に光りが当たり、キノは眉間に皺を寄せた。

 そっと瞳を開けると、窓から光が差し込み、寄宿舎の部屋を明るく照らす。


「あれ……」


 ベッドから出て、部屋を見渡せば、二段ベッドが二つ。左にはヒューイとライアンが。そして、右の二段目にはグレンが。それぞれ気持ち良さそうに、ベッドのカーテンも閉めずに私服のまま寝ている。


 キノは、ふと自分の枕元を見た。


 黒いカバーがされたノートがある。それを手に取ると、表紙に『シヨン・ジョセフ』という名前が型押しがされている。中を捲れば、それはスケジュール帳であった。


「ああ、そういえば。先生のスケジュール帳をんだった。今日、届けてあげないと……」


 キノはベッドサイドの時計に目を向け、もう少し寝れると思い、ベッドへ戻ったのだった。

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