第4話 魔女祭り


 天井には、まん丸のお月さん。


 金色の光が降り注ぎ、いつもの見慣れた光景が謎めいた雰囲気を纏い、妖しく輝いて見える。

 まるで四人が何をするのかと、お月さんも森の木々も、息をひそめ、好奇心いっぱいに見ているようだと、キノは思った。


 真っ暗な森の中。なのに、月明かりがキノ達の行く先を照らすように、道が明るく見える。

 月明かりに導かれながら四人が森へ進むと、漸く廃墟が現れた。

 

「随分と、静かだね」

「ランプの灯りすら見えないけど……」

「本当に、祭りなんてやってるのかな?」

「とりあえず、ドアを開けてみよう。僕らは、されているのだから」


 グレンの言葉に、三人は頷く。そして、重厚なドアの前に立ち、グレンがドアノブに手を掛けると、眩しい程の光りが四人を包んだ。

 あまりの眩しさに、四人は強く目を閉じる。


 ザワザワと人の行き交う音と、初めて聴く音楽に歌声、なんとも旨そうな香りが鼻をくすぐる。


 四人は恐る恐る目を開けると、そのまま大きく見開いた。


「……すごい、街だ……」


 グレンが掠れた声でいう。後ろを振り向くと、入って来たドアが消えている。再び前を向けば、四人の目の前には、何とも賑やかな街並みが広がっている。夜だというのに、煌々と輝く街は、まるで昼間のように明るい。


 大通りの両側には屋台が所狭しと立ち並び、大通りの先には舞台が見えて、そこで何やら演奏を行っており、舞台の下では踊る人々が。


「ここは、一体……」

「魔女の台所だ! 全部食べるぞぉ!」


 キノが呆けていると、後ろに居たはずのライアンが突然叫びながら一番に駆け出し、旨そうな香りを漂わせている屋台に向かった。


「アイツ、さっきまで怖がってたくせに……」


 と、グレンが呆れて言えば、次はヒューイが突然、声を上げた。


「見て! すごい! 恐竜のが飛んでる!!」


 その言葉に、キノとグレンが空を見上げ、目を見開いた。見上げた夜空には、優雅に恐竜の骨が幾つも飛んでいるでは無いか。

 恐竜好きのヒューイが空を見上げながら、駆け出してしまい、キノとグレンだけが残された。


「なんて纏まりが無いんだ……」


 と、グレンがため息を吐く。


「グレン、せっかくだから、僕らも楽しもうよ」

「ああ、そうだな」


 屋台には、食べ物だけでなく鉱石や鉱物、不思議な植物やお守りなど、様々な物が売り出されていた。キノ達がお金を出そうとすると、魔女達は「久々の可愛い客人」と言って、ご馳走してくれたり、定価よりも何倍も安く売ってくれた。


「キノは、何を買ったんだい」

「お守りだよ。何か身の危険があった場合、必ず助けてくれるお守りだって」

「キノは、危険に遭う予定なのか?」

「危険回避する対策は、したっていいだろ?」

「まぁ、キノらしいね」

「グレンは何を買ったの?」

「僕は、『魔法使い入門』って本だよ」

「グレンは、魔法使いになりたいの?」

「いや、そうじゃないさ。でも、面白そうだろ?」


 二人がそんなやり取りをしていると、舞台の方から人々の叫ぶ声が聞こえきた。


「何があったんだろ……」

「キノ! 見ろ!」


 グレンの指差す方へ顔を向ける。舞台の奥。その後ろに、大きな大きな、青い竜が居たのだった。

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