またね、世界
御槍 翠葉
第1話
「ただいま」
私の帰宅を知らせるため家の奥に向かってそんな事を言う。
すぐに靴を脱いでリビングへと向かう。
リビングの電気が着いていなくてもう寝てるのかなと思い、静かにリビングへ入る。そこには電気も付けずにソファーに座っている彼女の姿があった。
「なぜ、電気も付けないで座っているんだい」
私は彼女にそんな問いを投げかけながら電気を付け彼女に近づく。
彼女は怒っているのか俯き、私を一瞥もせずにいる。
私の問いに答えることは無い。
「先日のことならすまなかった、頼む機嫌を直してくれ」
私がそう弁明しても彼女は見向きもしない。
こうなったら仕方ないと私はキッチンへと向かった。
「今日は私が料理をする日だったよね。
君の好きなものを作るよ。」
私は手早く食材を並べ、彼女が好きなビーフシチューを作る。
私も彼女も料理が好きだ。
だから彼女とは料理の当番を決めて暮らしている。
本当なら毎日でも私が作ってもいいのだが交代で当番をするようにしたのだ。
出来上がった頃には彼女はもう、ダイニングの椅子に座っていた。
私は出来上がったものを彼女の元へと持っていき自分の分も机に置いてから椅子に座る。
「今日は少し高級なお肉を奮発したんだ。なんたって今日は私たちの結婚記念日だからね。」
私の言葉に彼女が何かを答えることは無い。
彼女は淡々とスープを口に運んでいる。
私はそれを眺めながら、やはり彼女はこれが好きなんだなと思う。
怒っていても好きなものを食べる手は止められないのだろう。
私はそんな彼女を少し眺めてから自分のビーフシチューを食べる事に。
今日、作ったビーフシチューは今まで作った中で一番の出来だと自負している。
そんな期待感を持ってビーフシチューを掬ったスプーンを口元へと運ぶ。
「思っていた、以上の出来だな。
君もそう思わないかい」
私はそう言いながら何も無い空間を見た。
先程まで居たはずの彼女はそこには居なく、そこには私が持ってきたスープだけが机の上にぽつんと置かれていた
「え?」
私は夢を見ているのかもしれない。
「いや、そうか...」
「彼女はもう居ないんだった。」
またね、世界 御槍 翠葉 @goyari_suiyou
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